シリア・アラブ共和国における文化遺産保護国際貢献事業2

事業名称
シリア・アラブ共和国における文化遺産保護国際貢献事業(文化遺産国際協力拠点交流事業)
国名
シリア・アラブ共和国
期間
2018年~2020年
対象名
特にイドリブ博物館及びイドリブ県所在の世界遺産「北シリアの古代村落群」内の破壊の危機にある遺跡
文化遺産の分類
-
実施組織
筑波大学
出資元
文化庁
事業区分
意識啓蒙・普及活動、 人材育成、 保存修復

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背景

Background

事業の背景

2011年春のシリアにおける内戦勃発以来、シリア各地の文化遺産は極めて深刻な状況に陥っている。この事態に対して、シリアのイドリブ県で長期間にわたって内戦前に考古学調査を継続してきた筑波大学の調査隊は、文化庁の文化遺産保護国際貢献事業の支援を受けて、危機にあるシリア文化遺産の保護に取り組み、かなりの成果をあげてきた。私たちは、シリアの文化遺産を守っていくために、この取り組みをさらに発展させたいと考えて、拠点交流事業により、年間を通じた活動を行いたいと考え、事業を申請した。交流拠点として、緊急支援でも密接に協力したシリア政府文化財博物館総局(DGAM)と、NGOイドリブ文化財センターを想定して、以下の3つのオペレーションを実施することとした。その多くは、緊急支援からの継続的事業であり、それを発展させたいと考えた。
1) シリア文化遺産の重要性を伝える教育活動の継続、特に子供たちにそれを伝えられるテキストの作成、配布。
2) イドリブ博物館の復興事業への協力
3) 破壊の危機にある遺跡のデジタルデータによる記録
こうした事業を行うために、シリアでの文化財の保全、保護に深くかかわる、上述したDGAMや、イドリブ文化財センター、各地でのシリア難民教育などに当たっているNGOなどと継続的に協力関係を発展させ、また日本においても、シリア文化財の保全保護活動を積極的に行っている奈良県立橿原考古学研究所や、財団法人古代オリエント博物館などとも連携を模索した。

  • 以前の取り組みで、作成した『100の遺跡が語るシリアの歴史』アラビア語版の出版とその意義は、シリアの新聞でも紹介されている(Teshrin 2017年2月20日)

  • 以前の取り組みで作成した、シリアの遺跡と歴史の重要性をコンパクトに示すアラビア語小冊子 السورية لتاريخ العالم 常木 晃、サリ・ジャンモ

活動内容

Activities

1)シリア文化遺産の重要性を伝える教育活動の継続

 以前の緊急調査事業で、シリア文化遺産の重要性をシリアの人々に伝えるために非常に大きな役割を果たした『100の遺跡が語るシリアの歴史』アラビア語版Tarikh Souria fi Mia Muwaqa Ashariya第2版を2018年1月に、さらに第3版を2020年1月にDGAMの協力を得てダマスカスで印刷出版し、シリア内外の教育施設に配布した。また、この本を使ってトルコ・イスタンブールでシリア難民の教員や学生とワークショップを行い(2019年3月)、シリアの歴史の重要性についての議論を深めた。さらに、より小さな子供たちにシリアの先史時代の重要性を伝える『まんがで読む文明の起源:シリアの先史時代』アラビア語版Asl alhadarat alsuwriat eusur ma qabl altaarikhを作成(2019年12月)し、配布した。

2)イドリブ博物館復興への支援

イドリブ県で古代オリエント博物館や筑波大学が調査を実施してきたこともあり、日本の考古学調査隊とイドリブ博物館は深い関係にあった。またイドリブ博物館にはエブラ王国の首都であるテル・マルディーフからの出土品、世界遺産「北シリアの古代村落群」からの出土品なども収蔵され、シリアでも有数の博物館であった。しかし内戦が始まり、特に2016年9月にシリア政府による激しい爆撃を受け、収蔵庫を含めてひどく被災してしまった。この博物館は、それ以降も反政府側が占拠していたが、2018年ごろからNGOイドリブ文化財センターが積極的に管理にかかわるようになり、博物館や収蔵庫の修理、たくさんの被災した遺物の記録、修理、保存など、博物館の復興に努力している。私たちは、イドリブ博物館が収蔵する極めて重要な文化財の散逸を防ぎ、少しでも良好な状態を保つために、イドリブ文化財センターに助言や支援を行った。

3)破壊の危機にある遺跡のデジタルデータによる記録

 NGOイドリブ文化財センターに、世界遺産「北シリアの古代村落群」に所在する重要で被災する恐れの大きい初期教会のデジタルデータの収集を引き続き依頼し、3Dイメージによる記録を行っている。特に、4世紀に帰属する最初期の教会と言えるKirkbize,さらに5世紀の良好な残りのSerjilla教会について、膨大な量の連続したデジタル写真の撮影を依頼し、日本にデータを送付してもらって、中部大学の渡部展也が詳細な3Dイメージを復元し、冊子及びホームページ上でデータを公開した。

4)古代オリエント博物館での「危機にあるシリア文化遺産の記録」開催

 上記のシリア文化財に対する私たちの保全保護活動のうち特に3)の活動について一般に広く広報するために、2019年6月8日―6月30日に古代オリエント博物館においてクローズアップ展示「危機にあるシリア文化遺産の記録」を開催した。

  • 100の遺跡が語るシリアの歴史アラビア語版 Tarikh Souria fi Mia Muwaqa Ashariya 第2版Salhani Publishing 2018年。

  • 同書を使ってシリア難民の教員や学生と行ったワークショップ(2019年3月イスタンブール)。

  • 被災したイドリブ博物館の復興支援(被災後)

  • 被災したイドリブ博物館の復興支援(復興後)

  • 破壊の危機にある遺跡のデジタルデータによる記録 Serjilla遺跡の5世紀教会の3D復元モデル(渡部展也による)

結果

Results

成果

今次の拠点交流事業では、1)シリアの文化財の重要性を理解するためのより具体性の高い教育資材の提供と、2)イドリブ博物館の復興を直接的に支援し、イドリブ博物館収蔵の文化財の保存の促進を支援すること、そして3)イドリブ県に所在する世界遺産(危機遺産)「北シリアの古代村落群」に所在する初期教会のデジタル3D化を一層促進することを目指した。1)の目的は、もちろんシリアの人々にシリアの遺跡や歴史の人類史的な重要性を分かってもらうことにある。そのために様々な教育冊子を作成し、それらを使ってシリアの人々の歴史認識を深めていくワークショップなどを行ったが、特に若い人々と話をしていて、彼らの方が私たち以上に、シリア人としてのアイデンティティの獲得に文化財が必要不可欠だと認識していることに驚かされ、刮目した。私たちが作成した様々な教育図書が、そのためにとても役に立っていると、むしろ私たちが励まされた。2)では、イドリブ博物館を再興しようとするイドリブ文化財センターの人々の活動を少しでも支援することを目指した。彼らは私たちの予想をはるかに超え、2018年夏には一部ではあるがイドリブ博物館を再オープンさせ、子供たちや女性たちをそこに招待するとともに、イドリブの地域を深く知るため、オンサイト説明会なども実施している。そこでもまさに、文化財の力が彼らを後押し勇気づけていた。そして3)については、4世紀にさかのぼるイドリブ最古の教会の一つであるKirkbizeh遺跡の集会所に似た教会の3D化を行うことができるとともに、地域で最も残りのよい教会の一つである5世紀のSerjilla教会のVRによるバーチャルツアーまで製作することができた。これらは初期の教会史を考えるうえでも、重要なアカデミックな成果ということができよう。

  • 小さな子供も理解できるように、シリアの先史時代の重要性を物語風に漫画で描いた本『まんがで読む文明の起源:シリアの先史時代』アラビア語版

  • イドリブ博物館において、被災した粘土板などの修復や保管などに取り組むイドリブ文化財センターの人々。

  • イドリブ博物館において、シリア文化財の重要性について、子供たちや住民に説明を試みるイドリブ文化財ンセンターの人々(2018年8-10月)

  • 『危機にあるシリア文化遺産の記録』展カタログ表紙(2019年3月)

  • 展覧会場で行ったSerjilla遺跡5世紀教会のVRによるバーチャルツアー

地図

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