サウジアラビア、タブーク州における初期遊牧民の考古学的研究における研修事業

事業名称
サウジアラビア、タブーク州における初期遊牧民の考古学的研究における研修事業
国名
サウジアラビア
期間
2013年~2014年
対象名
ワディ・グバイ遺跡、ワディ・シャルマ1遺跡など
文化遺産の分類
-
実施組織
金沢大学・人間社会研究域歴史言語文化学系
出資元
日本学術振興会
事業区分
基礎研究、 人材育成

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背景

Background

事業の背景

サウジアラビアは、アラビア半島のほぼ大半を占め、イスラーム教の起源地として、歴史的・宗教的に価値の高い史跡が数多く存在する。また、タイマ遺跡やマダイン・サーレハ遺跡など重要な先イスラーム期の遺跡も確認されている。しかし、海外の考古学調査隊の活動が大きく制限されてきたため、最新の調査技術が紹介される機会が少なく、文化遺産に携わる若手研究者が発掘現場などで技術を磨く場が稀であった。
 金沢大学は初期遊牧民の形成過程を探るため、サウジアラビア北西部のタブーク州・ジョウフ州で2012年から5ヶ年間の調査許可を取得した(代表:藤井純夫)。2013年度には、日本学術振興会の二国間交流事業の支援を受け、「サウジアラビア、タブーク州における初期遊牧民の考古学的研究」(代表:足立拓朗)がスタートした。この事業は、金沢大学とサウジアラビア考古観光委員会、キング・サウード大学の共同で実施されている。二国間交流事業は、対象国との持続的ネットワークの形成を目的としているため、調査・研究そのものが、サウジアラビア・日本の若手考古学者にとっての研修の場となるように事業を実施している。サウジアラビア側の研修参加者は、キング・サウード大学卒業のサウジアラビア考古観光委員会職員、日本側参加者は金沢大学人文学類の学生であった。本稿では、この研修活動を紹介する。

  • ワディ・グバイ遺跡での発掘研修風景

  • ワディ・グバイ遺跡での測量研修風景

  • ワディ・シャルマ1遺跡の研修参加者

活動内容

Activities

本事業の概要

本事業では、サウジアラビア北西部タブーク州ワディ・グバイ遺跡、ワディ・シャルマ1遺跡などを研修地に、測量、発掘、ラジコン・ヘリコプターによる空撮の研修を行なった。両国の研修生は考古学課程を大学で受講しており、基礎的な技術は習得している。そのため、本事業では、サウジアラビアにおいて調査・研究が進んでいない先イスラーム期の遺跡を対象とし、新石器時代の遺構・遺物の確認や青銅器時代の円塔墓などの調査技術を習得することに主眼を置いた。サウジアラビア側研修者はこれまでにイスラーム時代の調査・研究を主に行ってきており、大半が先イスラーム期遺跡での調査は初めてであった。日本側研修者は西アジアでの発掘調査が初体験であり、日本とは異なる調査手法を学ぶこととなった。
 新石器時代の集落遺跡であるワディ・シャルマ1遺跡では、まずトータルステーション・電子平板による遺跡測量を実習した。その結果を基に発掘区の設定、遺物の表面採取など発掘の事前調査を行った。遺物は石器が大半を占めており、石器実測の実習も併せて実施した。その後、発掘調査を開始し、方形あるいは円形の住居跡を複数確認した。本遺跡周辺は常に強風が吹き荒れており、調査は困難を極めたが、現地遊牧民の積極的な協力により調査を予定通り進めることができた。ヘリコプターを使用した遺跡の空撮は、強風の合間を縫って実施した。
 青銅器時代に属するワディ・グバイ遺跡では100数件に及ぶ円塔墓などの積み石遺構が発見された。これら積み石遺構の分布図を作成しながら、全遺構のデータ採取・撮影を行い、遺跡の現状を正確に記録した。その後、保存状態の良好な円塔墓1基の発掘調査を実施した。遺物は出土しなかったが、持ち送り状の内壁状態や中央に支柱を持つ墓室構造が明らかになった。今後、より複雑な構造を有する積み石遺構の発掘調査が予定されている。

結果

Results

今後の課題

これまで、2013年9月、12月、2014年3月、9月の計4回の研修を実施したが、サウジアラビア側若手研究者の新石器時代遺跡に対する知識不足を痛感した。イスラーム期に対する知識と比較すると、大きく見劣りすることは否めない。しかし、サウジアラビア側研修生は、一連の研修に対し非常に意欲的で、進んで技術を身につけようとしていた。
 サウジアラビアでは、登録された遺跡の周囲は強固なフェンスが巡らされており、他の中東諸国と比較すると遺跡保護に対する意識は高いと言える。しかし、遺跡の登録が新たに行われる事例は少ないように感じた。本事業で新発見したワディ・グバイ遺跡は、100数件の積み石遺構が存在する大遺跡であるが、これまでその存在は知られておらず、遺跡の保護措置は全く取られていなかった。そのため現在でも盗掘が進行している状態である。広大な国土を有するサウジラビアには、未発見の先イスラーム期の重要遺跡が存在することは確実である。そのため、サウジアラビア側からは、2015年度以降も調査・研究と同様に研修の継続を望む声が寄せられている。今後とも、サウジアラビアに対し、文化遺産の調査・研究および保護分野における継続した支援事業が必要である。

  • 空撮のためのラジコン・ヘリコプター

  • ヘリコプターを操作する筆者

  • ワディ・シャルマ1遺跡空撮写真、遺跡はフェンスで囲まれている

地図

Map

Projects

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