第3国文化遺産研修

事業名称
第3国文化遺産研修
国名
イラク共和国
期間
2004年~2009年
対象名
ウム・カイス遺跡他
文化遺産の分類
記念物、 建造物群、 遺跡
実施組織
国際協力機構(JICA)、UNESCO、ヨルダン考古局、国士舘大学
出資元
ユネスコ(国際イラク文化遺産復興支援調整会議)
事業区分
人材育成、 保存修復

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背景

Background

人類最古のメソポタミア文明

人類最古の文明を誇るメソポタミア文明の発祥地、イラク共和国。そのイラクの歴史は北部イラクの山岳地帯にあって、洞窟、岩陰遺跡などを有する旧石器時代にはじまり、また肥沃な三日月地帯の山麓、台地にあり農耕牧畜を始めた新石器時代、そして徐々に都市化して文明の誕生と発展を見ることになる南メソポタミアでのシュメールの都市国家、そして中部メソポタミアにあってメソポタミア全土を支配することになるアッカド、古バビロニア帝国、更に北メソポタミアにあってオリエントを支配したアッシリア、また中部にあって新バビロニア帝国の古代文明が興亡を繰り返した。またイスラム時代のアッバス朝においては帝都バグダードにイスラム文明が花開くことになる。このようにイラクは長い文明史の中にあって、数多くの優れた文化遺産を遺した文化遺産大国でもある。

イラク戦争と文化遺産

 イラン・イラク戦争、湾岸戦争、そして2003年3月にイラク戦争が起こった、その時のイラク国立博物館での略奪はまだ記憶に新しい。またそれはイラク博物館のみならず、中央図書館、大学図書館なども略奪を受け、その被害は計り知れない。近年も治安は安定せず、遺跡の盗掘も行われるなど、貴重な文化遺産が破壊され、また海外流出しており、イラク戦争後の文化遺産復興の目処はたっていないのが現状である。

  • 研修風景、測量の実習

  • ウム・カイス遺跡

活動内容

Activities

イラク文化遺産復興支援

 そうした中、文化遺産復興支援に動き出したのがユネスコに設立された国際イラク文化遺産復興支援調整会議であり、その勧告を受けて支援を始めたのが、国際協力機構(JICA)、UNESCO、ヨルダン考古局、国士舘大学が共催した、第3国文化遺産研修である。こうしてイラクの隣国ヨルダン、ウム・カイス遺跡において研修をすることが、2004年9月の専門家による会議よって決定され、2005年の春から、イラク人15名、ヨルダン人5名を招聘し、研修を開始した。遺跡の立地条件、環境調査(地理・環境班)、発掘調査(考古班)、保存・修復(保存科学、土木・建築班)、活用(文化遺産班)など一貫した研修をウム・カイス遺跡にて実践していくことを研修目標とした。その後研修は夏に15人で1~2ヶ月、春に4人を対象として,2週間実践され、講師には主として文科省学術フロンティア事業「戦後イラクの社会基盤復興に活かす文化遺産学研究」(2005年~2009年)(研究代表者:松本健)のメンバーがあたった。またドイツ、ウム・カイス調査団の調査研究員やUNESCOの専門家等も研修を担当した。こうした研修は2007年の夏まで継続され、その後はフォローアップとして2009年夏まで実施された。

  • 破壊されたイラク国立博物館(200305)

  • ウム・カイス遺跡の発掘区域

結果

Results

ヨルダン、ウム・カイス遺跡

イラク人研修と調査研究の対象であるウム・カイス遺跡はヘレニズム時代、ローマ時代のデカポリス(10の都市の連合体)の一つとして知られ、古代ではガダラと呼ばれていた。そのガダラには東西1.7kmに延びる列柱道路があり、その両側には劇場、ニンフェウム、風呂、フォルム、八角堂、また競技場などが建ち並んでいる。研修と調査の対象となった区域は初期ローマ時代の市門付近の内側にあたるところで、ヘレニズム、ローマ、ビザンチン、ウマイヤ朝時代にわたって、公共施設だけではく、一般市民の生活が調査研究できるところでもある。発掘調査の結果、モザイク床を持つ巨大な施設、市民の家屋と思われる建物が発掘され、遺跡からはコイン、瓦、土器片、ガラス片、ランプ片、獣骨片などが収集された。こうして発掘された道路や建築物そして遺物をどのようにして修復し、保存していくか、またそれらをどのように教育や観光に活かしていくかをヨルダン考古局と協議しながら進めている。
 また遺跡の周辺にあるウム・カイス女子中学校と東京の三園小学校とインターネットのテレビ通信による交流を行い、文化遺産の大切さや異文化理解が相互に行えるような活動も行っている。

研修の成果と今後の課題

そうしたウム・カイスにおける調査研究、また文化交流活動をイラク人の研修に活かし、イラクでの文化遺産保護意識と活動が広まるよう研修を行ってきた。また研修生はその研修で得た知識、技術、経験を活かしイラク国内において研修や啓蒙活動を行い、それらは高い評価を得ている。
 今後は先端技術を伴う研修を進めていく予定であるが、更に多くのイラク人文化遺産関係者の研修実施の要請も受けている。治安が一日も早く安定し、イラク本国での文化遺産研修が進められる日が待たれている。

  • パソコン、GPSの研修

  • 絵画習字などの作品交換

  • ウム・カイスの列柱道路

地図

Map

Projects

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