スリランカ民主社会主義共和国における協力相手国調査

事業名称
スリランカ民主社会主義共和国における協力相手国調査
国名
スリランカ民主社会主義共和国
期間
2013年~2013年
対象名
スリランカの文化遺産
文化遺産の分類
記念物、 建造物群、 遺跡、 文化的景観
実施組織
文化遺産国際協力コンソーシアム
出資元
文化庁
事業区分
基礎研究

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背景

Background

光り輝く国の文化遺産

6つの世界文化遺産を擁するスリランカ、これら数々の貴重な文化遺産はこの国が何世紀にも渡って周辺諸国の影響を強く受けながら発展を遂げた歴史を今に残している。
 紀元前3世紀頃から仏教王国として栄え、その後は隣国インドや東南アジア、アラビア、ローマなどとの交流を通じてヒンドゥー教やイスラム教、キリスト教といった様々な宗教が伝播し、多民族・多宗教が共存する多様な文化を持つ独特な社会が構築された。こうした文化の混交と調和は、島国として固有の特徴を持つ文化遺産を生みだし、有形では建築、彫刻、絵画、工芸品、文学、無形では宗教儀式などが育まれた。豊富な文化遺産は現在でも仏教遺跡を中心に国を挙げて積極的に保護されており、また、保護するだけでなく、観光資源としても活用されている。
 16世紀以降の西欧諸国による統治時代を経て、20世紀に入ってからは独立戦争、そして独立後には民族紛争が勃発した。紛争は2009年まで25年にわたって続き、北東部を中心に各地で悲惨な傷跡を残すことになった。こうして戦闘地域にある文化遺産は適切な保護・管理を受けることができないまま放置され、甚大な被害を受けた。
 内戦はスリランカの主要な産業である観光にも打撃を与えた。我が国からも経済協力の観点から、世界遺産シーギリア遺跡の博物館整備を軸とした観光振興事業などの協力は進められていたが、北部は紛争終結後も状況が流動的であったため、近年まで立ち入ることができなかった。

  • ティリヤーヤ遺跡

  • 地雷除去作業が進む北部へ向かう道

活動内容

Activities

内戦と開発で危機にある文化遺産

 北・東部は内戦の影響により25年以上立ち入ることができなかったため、この間は文化遺産に関する調査・研究もほとんど行われておらず、この地域における文化遺産の状況を調査する必要性があると意見が聞かれるようになった。具体的には、どのような文化遺産が存在し、内戦でどれほどの影響を受けているのかを把握し、これら文化遺産の保存・活用を通じてどのような協力ができるのかと言った情報が求められていた。調査にあたり、日本国内でのスリランカに関わる文化遺産の専門家にヒアリングを行ったが、地雷除去の努力により最近になってようやく立ち入ることが可能となった地域であるため、内戦勃発以降の情報はほとんど得られなかった。同様にスリランカ政府の担当者も北部地域についての情報はまだまだ収集できていなかった。こうした状況を鑑み、文化遺産国際協力コンソーシアムでは調査団を派遣し、スリランカ北・東部における文化遺産の状況を調査することとなった。
 今回の調査では北部の中心地とも言えるジャフナ周辺で実施した。現在ジャフナには経済開発の波が押し寄せていて、内戦の傷跡が残る建造物等は撤去されつつあり、同時に歴史的建造物等の文化遺産は調査や保護のための方策が取られないまま破壊の危機を迎えているという情報が事前に伝えられていた。今回の調査ではスリランカ考古局の協力を得て、考古局が現在把握している文化遺産のリストをもとにそれらの保護状況を調査した。また同時に、考古局が管理している博物館も訪問し、発掘された遺物などについても保護・展示の状況を調べた。

  • 内戦によって被害を受けた旧市庁舎

  • スリランカ文化遺産省とのミーティング

結果

Results

平和と安定に向けた文化遺産の活用へ

調査の結果、内戦の影響を受けた地域にも紀元前から植民地時代までの様々な時代の文化遺産が存在し、その多くが危機的な状況にあることが確認された。こうした遺産を後世に伝えるためには、まず更なる詳細調査による正確な状況の把握が必要であると見られる。スリランカ政府でさえ把握できていない遺跡も数多く存在しており、急速に開発が進む現状では早急な対応が必要と言える。今後地雷の撤去がさらに進み、調査可能な範囲も拡大していくと見られるため、建造物、遺跡などの詳細調査に我が国の専門家が協力できる部分が大きいのではと思われた。
 文化遺産の保護には地元住民の努力が不可欠であり、そのためには彼ら自身が遺産の価値を正しく認識する必要がある。現在、ジャフナの街中には荒廃した歴史的建造物が放置されており、これらに関する説明書きの看板等も無いため、地元住民に文化遺産として認識されていないものが数多くある。今後はこうした遺産の価値を教育等によって正しく伝え、地元住民が積極的に保護に関わることができるようにすることが急務であるといえる。
 民族紛争後の国々では、平和に向けた歴史教育のなかで博物館が果たす役割も大きく、スリランカでもこうした活用の可能性は大いに考えられる。ジャフナ国立博物館は内戦中も地元住民の努力によって守られてきた。この博物館を整備し、北部スリランカでの多様な文化が共存した歴史を伝えるために活用することも、今後の重要な課題と考えられる。
 長期間続いた内戦の間にも、ジャフナ大学等の教育機関は高い水準を維持しており、文化遺産保護に従事する人材は着実に育成されている。この人材育成にも我が国がもつノウハウを活かして協力することが可能であると言える。
 四半世紀に及んだ内戦が終結を迎えてまだ日は浅い。この戦いを繰り返さない為にも、文化豊かなスリランカであるからこそ、今後の文化遺産保護の協力を通じた平和への協力にも期待がかかる。

  • ジャフナに残る荒廃した歴史的建造物

  • ジャフナ国立博物館のスタッフたち

地図

Map

Projects

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