世界遺産フエの歴史的建造物群の保全に資する学術総合調査研究

事業名称
世界遺産フエの歴史的建造物群の保全に資する学術総合調査研究
国名
ベトナム社会主義共和国
期間
1991年~2009年
対象名
フエ遺跡
文化遺産の分類
記念物、 建造物群
実施組織
早稲田大学総合研究機構
出資元
外務省(ユネスコ文化遺産保存日本信託基金)
事業区分
基礎研究、 人材育成、 保存修復

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背景

Background

中国文化の受容とフエの独自性

ベトナム中部都市フエは、ベトナム全土を統一した最初で最後の王朝である阮朝(グエン、1802〜1945)の都が置かれていた。フエは、フランス的なヴォーバン式城郭に囲まれると同時に、碁盤目状の構造を有する中国的な街区をもあわせもつ都市である。
 ベトナム戦争の激戦地の一つとしても知られ、度重なる戦乱を経て、まさに“国破れて山河あり”の状態ではあったが、阮朝の王宮都市の骨格が保存されており、所々に残存している遺構、保存されている近代の写真資料などを繋ぎ合わせていけば、当時の都市全体像の復原は可能である。そして何よりも、ベトナム全体が、“ドイモイ”運動の最中であって、長い苦難から解き放たれた、希望、活気、逞しさ、初々しさのようなものが、フエの美しい風光と絶妙の間合いで息づいていることが実感されたのである。
 「フエの建造物群」で注目すべき点は、雨や台風の多いベトナム中南部の風土において、乾燥地帯であった中国北方の、屋根勾配のゆるい、中国古代建築様式を受容している点である。しかし、全体的な形式は中国の踏襲であるが、小さな部分的構成要素に分割して、陰影感が深く、リズムを重視したデザインが見られることが特筆される、この点は山と川が織りなす谷あいに点在する皇帝陵により特徴的である。また、中国の第1級の建物に見られない登り梁架構法を第1級の宮殿に取り入れ、独特な水平感の強い連続空間を形成している点もあげられる。

  • 往時の勤政殿の儀礼の様子

  • フエ阮朝王宮内・静明楼を改修・設置した現地組織との共同研修センター

活動内容

Activities

文化遺産の保全のための修復技術から地域計画までの学術総合調査に関する共同研究

フエの歴史的建造物群のユネスコ世界遺産登録に日本政府が協力し、現地関係者への技術指導のために、ユネスコ日本信託基金によるコンサルタントとして本研究代表者(中川)が、1991年フエに派遣された。当時既に、古都フエ遺跡保存センター(HMCC)は活動していたが、文化財の保存修復については手探りの状態であった。ヴィエトナム全土から集まった文化財関係者に、日本・エジプト・アジアの文化財保存修復技術と研究について講義を行うと同時に、フエの遺構を視察し、HMCCのスタッフと、彩色技術、木造建築の修理技法全般等について議論を重ねた。
 その後1995年に、当時のHMCC副所長フン・フー氏と大工技術者レ・ダン・チュン氏の2名がユネスコ・世界遺産保存日本信託基金による文化財保存修復技術研修に参加のため招聘された。以降、フエ王宮都市の全容解明と王宮紫禁城の中心殿舎である勤政殿の復原研究を、文部科学省科学研究費補助金等の助成金を得て進めてきた。
 現在もHMCCおよびフエ大学建築学科(都市計画)と連携・共同研究を行うと同時に、フエ王宮内の小宮殿や京城内の施設を改装し研究設備を付設した現地共同研究センターを設立した。センターでは、保存科学センターを充実させるなどして学術情報を集約し、二国間VPN情報網を構築している。

  • 現地スタッフと共に行ったGPS測量研修

  • 勤政殿基壇脇で行った発掘調査

結果

Results

文化遺産のオーセンティシティの確保と歴史環境を生かすまちづくり

研究成果は、阮朝王宮の宮殿建築の再建事業に資する最も重要かつ大量の学術情報を含んでおり、ベトナム側にとっても重要な価値を持っているといえる。
 ベトナム国政府首相訪日の際には、対象文化遺産を管轄する同国トゥアティエン-フエ県知事が首相訪日の一団に加わり、勤政殿の再建事業を日越文化交流事業の枠組みを踏まえて成立させるよう、我が国諸関係機関に働きかけ、その努力は今も継続中である。即ちベトナム国投資省の提案案件のショートリストに勤政殿復原計画を挙げ、その推進のために2009年度より、我が国日本政府との協議等を行っている。
 他方で、フエの建造物群は、1993年に同国第一号のユネスコ世界遺産として登録され、それを契機とした観光化政策の促進と保存修復事業が矢継ぎ早に生まれている。登録以前は、これ以上の破損や倒壊が進行しないように保存すること。自然災害に対する防護策を練ること、それらに必要な最低限の資金援助を国際社会に要請することなどの現状維持を目指した文化財保護行政であったが、登録を経て、文化財保護法等国内法を整備する以前に指針の無い修理工事が始まり文化遺産そのものの価値を低下させる危機的状況がある。我々はこのような状況に対応し、研究方法の技術移転を進め、より適切な保存修復の在り方や歴史環境を生かしたまちづくりを、共同作業を通じて共有する方策を粘り強く進めてきた。その結果、現在は問題意識を共有する若手研究者が育成されつつある。

  • フエ阮朝王宮内・閲是堂で行った国際ワークショップ

地図

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