2003年度は研究の初年度にあたり、今後の研究推進のための準備期間との位置づけで研究の進行にあたった。海外における研究推進に当たっては、とりわけ研究推進前の、事前準備が大きな比重を占める。特にカンボディアにあっては現地文化財保護機関が、アンコール地域を対象とするAPSARAとそれ以外の地区を対象とする文化芸術省の2機関存在する。平成15年度はまずAPSARAとソサイ窯跡群の調査研究との内容で、覚書の調印を行った。あわせて文化芸術省とは日本人町の調査研究で覚え書きの検討作業を行った。これと平行して、ソサイ窯の調査に向けて、これまでの表面採集で収集された遺物の実測作業を行った。日本人町の研究では、アンコール・ワットに残された中世日本人による墨書の撮影を含む調査を行った
APSARAとの共同研究は、アンコールの北東30kmに位置するソサイ窯跡群を対象とする。カンボディアにおけるクメール陶器研究は、これまで一部の外国人による研究はあったが、内線期の混乱等の影響により、窯後自体の調査が不可能だったなどの理由によって、研究が大きく遅れていた。1995年アンコール東北のタニ窯跡群が発見され、上智大学と当研究所との共同で発掘調査が行われた。この調査は現地におけるクメール陶器窯後初めての調査となり、大きな成果をもたらした。今回の科研による調査では、カンボディア中世期の手工業製品の生産と流通を解明することを目的に、ソサイ窯跡群の調査を計画した。タニ窯跡群の調査成果と比較検討することによって、クメール期手工業生産に新たな成果を得ることができると考える。
また日本人町の研究は日本中世と諸外国との関係を究明する上で、新たな視点を提出できるものと考える。
2004年度:
A.中世遺跡の調査
ソ・サイ窯跡群は、クメール陶器の一大生産地とされるクレン丘陵の南西麓にあり、これまでの表採調査等によって、クレン丘陵とよく似た器種構成の遺物が知られている。上記したようにタニ窯跡群が無釉石器を主体とする民窯的な様相を有しているのに対し、クレン丘陵の窯跡を含む山麓の窯跡群は、タニ窯跡群より数段質の良い灰釉陶器を中心とする官窯的な性格が推定されている。今回この点を含めてより広くクメール陶器生産の様相を明らかにするために、性格の異なるソ・サイ窯跡群の発掘調査を行った。
B.日本人町の調査
東南アジアと日本の中世を考えるときに、相互で出土する陶磁器の問題と、それを担った貿易についての関心が大きい。本特定領域においても、空間動態部門のC01-1「日本中世における貿易陶瓷器の生産と受容の構造的解明」とC01-4「中世東アジアの交流・交易システムに関する新研究戦略の開発・検討」の2計画研究で、陶磁器研究や交易の研究が取り上げられている。この視点を東南アジアにも適用するために、当該計画研究における2番目の研究テーマとして、カンボジアにおける日本人町の研究を取り上げた。
カンボジアにおいてもプノンペンとポニャー・ルーの2カ所に日本人町が形成された。市街地化したプノンペンについては現在その痕跡をうかがうことが困難であるが、ポニャー・ルーはこれまで何人かの研究者が訪れ、日本人町の所在やキリスト教徒の関係を考察している。
今回の研究では本年6月に予備調査として、これまでの研究で日本人町の所在地として有望視されている旧都ウドンの東、トンレサップ側西岸の踏査を行った。その結果従来から日本人町との関連が指摘されていた教会の跡地を始め、5カ所ほどの遺物出土地点を確認することができた。来年度以降この5カ所に試験的なトレンチを入れて、層位の状況や遺物の出土状態を確認し、その結果を検討して本調査の地点を特定する予定である。
2005年度の研究
A.日本人町の調査
本年度は6月22日から27日に、ポニャールー第一次発掘調査を行った。調査は昨年度の表採調査の結果によって、遺物の散乱状況などから選定した5地点のうち、教会の基礎が存在するNO.1地点と、最も遺物の採集量の多かったNO.5地点とで行った。
NO.1地点
この地点は以前の研究でも協会と思われる基礎が残っており、日本人町に関係する協会の跡地ではないかとされてきた。今回はまず地形測量を行い、遺存基礎構造の把握に努めた。
NO.5地点
NO.5地点では第一次の発掘調査を行った。トンレサップ川の河岸段丘上の2カ所に小規模なトレンチを2カ所設定した。Aトレンチでは遺物の出土がほとんどなく、河岸段丘の斜面では既に遺物が川へ流されているものと推定された。Bトレンチは河岸段丘上に設定し、かなりの遺物の出土を確認した。調査期間の関係で地山層の確認までには到らなかったので、次年度に再度調査を続行したい。
表採遺物の調査
本年度発掘調査の終了後に、出土遺物の調査を行った。今回は昨年度におもにNO.5地点で表採された中国陶磁の写真撮影と実測調査を行った。
B.窯跡の調査
クメール陶器研究では、昨年度末の第1次調査の成果に基づき第2次調査を2月14日から21日に行った。その結果、焼成室中央部で床面の検出を行い、考古地磁気測定のためのサンプリングを行った。また左右の窯壁を検出することができ、来期以降はこの窯壁を延長する形で、窯体の全容の確認を目指す。
カンボディアにおける中世遺跡と日本人町の研究
- 事業名称
- カンボディアにおける中世遺跡と日本人町の研究
- 実施地域・国
- カンボジア
- 地域
- アジア
- 事業実施機関
- 奈良文化財研究所
- 期間
- 2003年 ~ 2007年
- 協力の種類・事業区分
- 学術調査・研究
- 資金源
- 科研費