ブータンにおける建築遺産保護の今とこれから
ブータンはヒマラヤ山脈下の厳しくも豊かな自然環境に培われた独特な文化的伝統を有する国であり、国策の柱に位置づける国民総幸福量(GNH)の観点から、伝統文化の保護と継承に力を注いでいる国としても知られる。しかし、文化遺産としての歴史的建造物の保護に関しては、伝統的な建築行為が日常の一部として息づいていることもあり、仏教建築や宮殿建築を除いては制度的な枠組みが設けられていなかった。
2009年と2011年に相次いで発生した地震により多くの建造物が被災し、歴史的建造物の構造的安全性における欠点が露呈したことで、その大多数を占める伝統的な民家建築の保存が文化遺産保護における喫緊の課題として浮上することになった。以来、文化遺産保護を所管するブータン内務文化省文化局(DoC)では、新しい文化遺産基本法の制定を視野に入れて、歴史的建造物全般の保存の実践に向けた様々な検討を進めている。