タジキスタン国立古代博物館が所蔵する壁画断片の保存修復

事業名称
タジキスタン国立古代博物館所蔵壁画断片の保存修復(文化庁文化遺産国際協力拠点交流事業、東京文化財研究所西アジア諸国等文化遺産保存協力事業)
国名
タジキスタン共和国
期間
2008年~2011年
対象名
タジキスタン国立古代博物館が所蔵する壁画断片
文化遺産の分類
記念物、 遺跡
実施組織
東京文化財研究所、タジキスタン科学アカデミー歴史・考古・民族研究所
出資元
東京文化財研究所、文化庁
事業区分
人材育成、 保存修復

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背景

Background

壁画の宝庫タジキスタン

タジキスタンにおける古代壁画の発見
 第二次世界大戦後、ソ連邦は中央アジアの共和国に考古調査隊を派遣し、各国の遺跡を発掘した。タジキスタンでも、南部の仏教遺跡や北部のソグド人の都城址で発掘が行われ、めざましい成果を上げた。なかでも、仏教寺院やゾロアスター教神殿、富裕な市民の住居で発見された色鮮やかな壁画は、世界中の注目を集めた。これまで謎につつまれていた古代中央アジアの宗教や物質文化を、壁画の図像をてがかりに解明する研究がはじまった。

発見された壁画の保存修復
 国立エルミタージュ博物館の研究員によって、脆い壁画を合成樹脂で固めてから剥がし取り、その後実験室において本格的な修復を行う方法が考案された。この方法で剥ぎとられた壁画断片の多くは、エルミタージュ博物館に運ばれ、保存修復処置が行われた。
 1991年に中央アジアの他の共和国とともに、タジキスタンはソ連邦から独立した。独立後もロシアの発掘隊によって遺跡の発掘は続けられているが、出土した遺物はすべてタジキスタン国内に保管されることになった。これにより、タジキスタンで出土した遺物の保存修復は、タジキスタン国内で行わなければならない状況が生まれた。しかし、これまで遺物の保存修復はエルミタージュ博物館の主導で行われていたため、タジキスタンには、保存修復を行う体制が整っておらず、この状況に対応することができなかった。

  • 充填処置の研修

  • 展示された壁画断片と研修生

活動内容

Activities

タジキスタンにおける文化遺産保存修復のはじまり

タジキスタン国立古代博物館の開館
 独立後、タジキスタンの歴史・文化への国民の意識が高まるなか、2001年にタジキスタン国立古代博物館が開館し、国内の遺跡で発掘された古代・中世の考古遺物が展示された。博物館は大量の壁画を収蔵するが、展示されているのは約20点で、大部分は、保存修復が行われていないために、やむなく収蔵庫に死蔵されていた。壁画の保存修復を行う専門家を育てるために、ソ連邦に代わる国際的な協力が急務となっていた。

人材育成を目的とした壁画の保存修復
 このような状況において、2008年3月、東京文化財研究所とタジキスタン科学アカデミー歴史・考古・民族研究所は、文化遺産保護のための協力に関する合意書を締結した。両研究所は、タジキスタンにおける保存修復専門家の育成を目的とし、国立古代博物館が所蔵する壁画断片の保存修復を行う共同事業を、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」、東京文化財研究所「西アジア諸国等文化遺産保存協力事業」により開始した。
 本事業は2008年4月から2011年3月まで実施され、3年間で10回のミッションを派遣した。保存修復に関心のある現地の若手研究者延べ7名が研修生として参加した。日本やヨーロッパにおいて壁画の保存修復経験のある専門家の指導のもとで、壁画断片の整理と番号付けから、写真撮影、状態調査、クリーニング、強化、接合、充填、新しい支持体への設置(マウント)まで、一連の工程を習得した。研修生は3年間で10点の壁画断片を保存修復し、国立古代博物館に展示した。
 また、年に1回、「中央アジア出土壁画の保存修復」をテーマとしたワークショップを開催した。ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタン、トルクメニスタンの考古研究所、エルミタージュ博物館と敦煌研究院の保存修復専門家が参加した。

  • タジキスタン国立古代博物館

  • 展示された壁画断片

結果

Results

タジキスタンから中央アジアへ

3年間の研修によって、研修生は保存修復に必要な技術と知識を身につけた。同時に、自国の文化遺産が世界的にも注目される重要なものであることに気付くきっかけともなった。今後は、彼らが主体となって、タジキスタンの文化遺産の保存修復を担っていくことになる。彼らが保存修復専門家として自立していくためには、今後も継続的な支援が必要である。
 また、ワークショップの開催により、中央アジアの壁画の保存修復に従事する専門家の知識や技術の向上、各国の専門家を結ぶネットワークの構築にも成果が見られた。
 東京文化財研究所は、タジキスタンにおける壁画の保存修復事業に続いて、現在は、中央アジア各国の考古研究所など関係機関と連携して、考古学調査のワークショップを展開している。タジキスタンにおける事業を出発点として、今後も、中央アジア各国の文化遺産を保護する活動を支援していく予定である。

  • ワークショップ2010年秋

地図

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