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大洋州島しょ国の文化遺産保護に関する拠点交流事業

大洋州島しょ国の文化遺産保護に関する拠点交流事業

国立文化財機構 東京文化財研究所 無形文化遺産部

フィジー共和国

大洋州の無形文化遺産

2014年~2017年 人材育成,地域開発,意識啓蒙・普及活動
2022/08/09
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BACKGROUND背景

気候変動と大洋州の文化遺産

 大洋州の島しょ国には有形・無形の多様な文化遺産が所在する。しかし近年の気候変動の影響により、これらの文化遺産は危機に瀕している。とりわけ温暖化によって引き起こされるとされる海水面の上昇は、この地域の人々の生活に大きな影響を与え、一部の地域においては国土そのものの消滅に至る可能性が危惧されている。
 大洋州島しょ国の多くはいわゆるマイクロステートであり、文化遺産を保護するのに必要な資金的・人的リソースが不足していることが多い。そのため文化遺産の価値が国内的にも国際的にも十分認識されているとは言えない状況にある。とりわけ人々の生活に深く関連する無形文化遺産は、気候変動に加えグローバル化や近代化による影響を受けやすく、その存続が危惧されている。しかし一方で、島しょという限定的な環境に適応するために長年にわたって実践されてきた伝統的知識の中には、気候変動という現代的な問題を解決するためのカギとなる知恵が含まれている可能性もある。
 本事業では、大洋州島しょ国の文化遺産、とりわけ無形文化遺産を対象に、その持続的な保護と発展に資するためのワークショップを行った。とりわけ無形文化遺産の保護は現地コミュニティの主体的な関与が不可欠であるため、本事業のワークショップでは現地コミュニティのイニシアティブを重視する形で行われた。

ACTIVITIES活動内容

フィジーにおける現地ワークショップの開催と、第12回太平洋芸術祭における「カヌーサミット」の開催

 本事業では主要な事業として2つのワークショップを開催した。ひとつめは2015年12月にフィジーにおいて開催した現地ワークショップ、ふたつめは2016年5月の第12回太平洋芸術祭(グアム)において開催した第一回「カヌーサミット」である。
 フィジーにおける現地ワークショップは、本事業のカウンターパートである南太平洋大学(University of the South Pacific)と共同で実施した。南太平洋大学は大洋州島しょ国によって多国籍に運営される国際大学であり、メインキャンパスがフィジーに所在する他、各地にキャンパスが点在している。
 現地ワークショップを開催したのはフィジーの首都スバのあるビチレブ島から東に60 km余りの距離にあるガウ島(面積136.1 km2、人口2,600人)である。島の主要な経済は農業と漁業で、電気やガス、水道などのインフラは未発達であるが、伝統的な生活文化が良く残された場所である。ここでは南太平洋大学が国際協力機構(JICA)および三重大学の協力を得て「フィジー共和国ガウ島統合的開発支援事業:南太平洋しあわせ島づくり協力支援」事業を実施し、伝統的な資源利用を活用した持続可能な開発の実現を目指して活動を続けている。
 2015年12月8日から11日にかけて行われた現地ワークショップは、現地住民との間で聞き取り調査と意見交換を行う形で進められた。ガウ島においても、気候変動の影響(海水面の上昇、サイクロンの規模・頻度の増大)と考えられる海岸浸食が深刻な問題であるが、地域住民によって海岸部でのマングローブの植林が進められ、海岸浸食を食い止めようとする取り組みがなされていた。また近代以降に放棄されていた内陸部の農耕地をふたたび開拓し、伝統的な主要作物であるタロイモの栽培を行うという地域住民の取り組みを見ることができた。
 現地ワークショップを通じて、気候変動の影響という現代的な変化に対して伝統的知識を活用することによって適応するという、地域住民の積極的かつ主体的な活動を見ることができた。気候変動というグローバルな問題に対しては、近代社会(先進国)から伝統社会(発展途上国)への一方向的な「啓蒙」や「教育」だけではなく、むしろ近代社会の方が伝統社会から学ぶことも多いということに、改めて気付かされたワークショップでもあった。
 第12回太平洋芸術祭(グアム)における第一回「カヌーサミット」は、大洋州の各地域に共有された無形文化遺産であるカヌー文化(航海術、造船技術を含む)の保存と振興を国際的に推進することを目的に2016年5月26日に開催された。
このワークショップは、ユネスコ大洋州事務所と太平洋芸術祭事務局の協力の元、東京文化財研究所・南山大学人類学研究所・グアム伝統芸術委員会(Traditional Arts Committee, Guam)・グアム伝統航海協会(Tatasi Subcommittee, Guam)の共催で開催された。メラネシア・ポリネシア・ミクロネシアの各地域においてカヌー文化の保存と振興に携わる実践者や伝統的航海師、専門家ら100名余りが一堂に会し、カヌー文化の復興(カヌー・ルネサンス)に関する様々な活動の報告や議論が行われた。
 最後には、カヌー文化をユネスコの無形文化遺産に提案することを目指すとする参加者一同の合意が示された。参加者からは、カヌー文化の関係者が一堂に会するのはこのワークショップが初めてのことであり、歴史的なイベントであったとの感想を聞くことができた。

フィジー・ガウ島の現地ワークショップにおける地域住民への聞き取り調査

第12回太平洋芸術祭における「カヌーサミット」の様子

RESULTS結果

動画の公開と、「カロリン諸島の伝統的航海術とカヌー作り」のユネスコ無形文化遺産保護条約緊急保護一覧表への記載

 フィジーにおける現地ワークショップの様子は、動画『気候変動に立ち向かう文化の力:フィジー・ガウ島にて』(日本語版・英語版)を制作し、公開している。
 第一回「カヌーサミット」の様子は、報告書『Canoe Summit: The 12th Festival of Pacific Arts and Culture』(英語版)を制作し、ユネスコのウェブサイトからPDFのダウンロードが可能である。
 また第一回「カヌーサミット」においてカヌー文化をユネスコ無形文化遺産として提案することを目指すことが参加者によって合意されたことを受けて、各地域でそれに関連した動きが活発化した。その中で2021年に開催されたユネスコ無形文化遺産保護条約第16回政府間委員会においてミクロネシア連邦が「カロリン諸島の伝統的航海術とカヌー作り(Carolinian wayfinding and canoe making)」を提案し、緊急保護一覧表に記載された。本事業の成果が波及することによってこのような成果に結実するに至ったことは望外の喜びであった。

MAP地図