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カザフスタンにおける考古遺物の調査・記録・保存に関する技術移転を目的とした拠点交流事業

カザフスタンにおける考古遺物の調査・記録・保存に関する技術移転を目的とした拠点交流事業

カザフスタン共和国

カザフスタン共和国国立博物館

2019-2022 人材育成,基礎研究,意識啓蒙・普及活動
2022/08/18
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BACKGROUND背景

広大なる草原の国カザフスタン

 カザフスタンにおける近代的な考古学調査はソ連時代の1920年代に始まり、現在まで100年近くもの長い歴史をもつ。ユーラシア中央部という極めて重要な地勢上の位置を占めるがゆえに、先史時代から歴史時代に至るまで、大陸規模での文化交流を示す世界的に有名な遺跡も数多い。カザフスタンでは、国立の博物館、大学、研究所により発掘調査も盛んに行われており、現在約200人もの考古学の専門家を擁する中央アジア最大の考古学センターである。日本による国際協力事業としては、東京文化財研究所による平成23~24年度のシルクロード世界遺産登録推進事業の対象国の一つとなり、奈良文化財研究所の協力によって遺跡地下レーダー探査の技術移転が行われ、良好な成果をおさめている。
 一方、長年にわたる活発な考古学調査で得られた膨大な数の出土遺物が、その後の調査研究に有効に活用されているとは言い難い。これまで、発掘調査後の室内での基礎的な整理調査、的確な事実報告など、考古学調査における基本的な調査研究が十分とは言えない状況が長年続いており、世界的にみても貴重な調査成果が、国外はもちろん国内においても十分に活用されていない。こうした背景から、奈良文化財研究所では令和元年度の文化庁文化遺産国際協力拠点交流事業を申請・受託し、首都ヌルスルタンに所在するカザフスタン共和国国立博物館を現地拠点機関とした交流事業を開始した。現地協議の結果をふまえ、「考古遺物の科学的調査方法」「出土遺物の応急処置と保存処理の方法」「文化財情報のデジタル化の方法」を研修テーマの3本柱とし、同地への技術移転を図った。

カザフスタンの首都ヌルスルタンのシンボルタワー:バイテレク

見るものを圧倒するカザフスタン共和国国立博物館のエントランス

ACTIVITIES活動内容

現地研修、招へい研修、そしてオンライン研修

 初年度の2019年度には、現地協議、現地研修、招へい研修を各1回開催し、両国間での文化財関連分野の専門家の渡航による対面式のコミュニケーションや、多人数の集まるセミナーやシンポジウムによって事業を推進し、新規事業への確かな手ごたえを得ることとなった。ところが、2020年度に状況が一変し、新型コロナウイルス感染拡大という大きな障壁により、実際に渡航することなく、また多人数を一か所に集めての研修やシンポジウムの開催ができないという条件で、専門的な技術移転事業を推進するという、全く思いがけない試みを強いられた。
 2020年度には「現場のための環境考古学(2020年11月18日)」「金属遺物の保存処理(2020年12月9日)」「カザフスタンにおける土器残存脂質分析の成果(2021年3月11日)」の合計三回のオンライン研修を開催、さらに2021年度には現地側の要望によって回数を増やし、「遺跡の発掘調査方法:日本とカザフスタンの違いを議論する(2021年4月30日)」「発掘現場における遺物の応急処置/カザフスタンにおけるガラス遺物の科学的分析研究(2021年5月24日)」「日本の考古遺跡保護の現状と課題(2021年12月22日)」「発掘調査における環境考古学的アプローチ(2022年1月28日)」「共同研究の成果報告及び総合討論(2022年3月2日)」の合計五回のオンライン研修を開催した。また、これと並行し、カザフスタン出土遺物、特に土器やガラス遺物等の科学的分析を日本国内で進めながら、現地側と分析方法や結果、解釈の仕方などについて情報共有を進めた。

カザフスタンのフラッグカラーを意識した 国際セミナーのチラシ

カザフスタン共和国国立博物館での    実習の様子

カザフスタン共和国国立博物館での    現地研修参加者集合写真

RESULTS結果

知識・技術の伝達と新たな知識の創生

 上記のように、様々な研修方法を通じて、日本の文化財の調査研究や保護に関わる技術や地域だけでなく、制度や体制についても様々な角度からの情報提供・意見交換を行うことができた。アンケート結果からは、単に満足度の高さだけでなく、研修を通じた新たな関心・知識欲の開拓の成果も確かに読み取ることができた。また、研修と並行して進めた日本国内でのカザフスタンの試料の分析によって、新たな知見も次々と得られた。
 例えば、豪華な黄金の副葬品で知られる西カザフスタンのタクサイ遺跡から出土した土器の付着物の分析では、キビの生物指標であるミリアシンが検出され、古代カザフにおいてキビが土器で煮炊きされていたことが初めて実証された。人骨など他の分析研究の成果と合わせると、このようなキビ粥は幼児のための食事の可能性が考えられ、当時の離乳食の問題などにも発展する可能性が出てきた。ミリアシンは1930年代に日本人学者によって命名され、2016年に世界で初めて日本人考古学者(庄田)によって遺跡出土土器から検出された化合物である。まさに日本のお家芸が、カザフスタンの文化財の新しい理解の助けとなった形である。
 また、巨大な墳丘で知られる中部カザフスタンのサバ古墳の出土土器からは、乳製品に由来する脂質が抽出され、この地での乳製品の伝統がこの時代にも見られることが明らかになった。さらに、西カザフスタンのタルトバ遺跡では、土器片に空いた穴(圧痕)にシリコンを注入して電子顕微鏡で観察した結果、キビの種実が同定され、この時代に西カザフスタンにキビが及んでいた確実な証拠を得た。このように、分析技術や知識の伝達だけではなく、その技術・知識をもって共同で調査研究にあたることにより、これまで知られていなかった新たな知見が次々と得られた。こうした進展を受けて、カザフスタン側からも、より深くこれらの分析の方法について知りたい、より多くの試料を調査研究したい、という要望が寄せられている。
 拠点交流事業は終了したが、現在も関係者間での交流は続いており、今後も継続的な学術交流・技術移が継続していくものと考えられる。なお、本事業での科学的分析を通じた成果の一部については、動画教材を作成し、YouTubeでも公開している。

「現場のための考古学」「金属遺物の保存処理」露語訳テキスト

オンライン研修最終回“KOPIR the final”での集合写真

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