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チャチャポヤの文化的景観 世界遺産登録及びエコミュージアム開発支援[現地活動報告]

The Cultural Landscapes of Chachapoya Approaches through Resident-Participation Support for Inscription on the World Heritage List and Ecomuseum Development[on-site activities] チャチャポヤの文化的景観 世界遺産登録及びエコミュージアム開発支援[現地活動報告]

国際協力機構(JICA)

ペルー共和国

クエラップ遺跡及びウトゥクバンバ渓谷域

2013年〜2014年 マスタープラン作成,意識啓蒙・普及活動,人材育成
2015/03/01
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BACKGROUND背景

クエラップ遺跡の世界遺産登録に係る国際協力

チャチャポヤ文化の聖地としてのクエラップ遺跡
 チャチャポヤ(ケチュア語で「雲上の森の民」の意)文化は、紀元5世紀に、アンデス山脈東側に位置するアマゾン川の源流域であるウトゥクバンバ渓谷を中心に興り、激しい抵抗の末、インカ帝国に征服される15世紀まで発展を続けた。本地域のほぼ中央部の標高約3,000mの崖地頭頂部に位置するクエラップ遺跡は、北側が断崖絶壁で、周囲を高さ約20m に達する石壁に取り囲まれ、外部からのアクセスが3本の狭い通路のみに限られているなどの特徴から、当初は「要塞」と考えられていた。しかし近年の考古学調査により、本遺跡は、チャチャポヤ文化の影響下にある様々な地域コミュニティの人々が、千年以上にわたって建設し続けた「チャチャポヤ文化の聖地」であったことが明らかになってきた。

クエラップ遺跡の世界遺産登録申請へ向けた技術協力の要請
 ペルー国は、近年堅調な経済成長を達成している一方、貧困や国内格差の問題が深刻である。そのためペルー国政府は、開発の遅れている北部地域の貧困削減を目指して、観光開発による北部観光回廊の形成を計画し、JICA 有償資金協力で「アマソナス州地域開発事業」を進めている。アマソナス州は北部観光回廊の中心地域の一つであり、その主要な観光資源であるクエラップ遺跡は、第二のマチュピチュとも呼ばれており、文化遺産としての価値に対する評価が高い。ペルー国文化省は、2003年に遺跡の保護を目的とした「クエラップ遺跡管理計画」を策定し、2011年には本遺跡を世界遺産の国内暫定リストに掲載している。
 近年の世界遺産登録にかかる議論においては、文化遺産の保全と観光利用への地域コミュニティの関与が求められているものの、ペルー国政府には、これまでにそういった住民主体の文化遺産保全や観光開発の経験がない。
 このような状況でペルー国文化省はJICAに技術支援を要請し、本業務を関雄二教授(国立民族学博物館)のアドバイスのもと、北海道大学観光学高等研究センターとエスティ環境設計研究所が共同で事業を実施することとなった。

クエラップ遺跡内部の神殿跡

チャチャポヤ文化の遺跡カラヒーヤ

ACTIVITIES活動内容

世界遺産登録戦略と住民参加の取り組み

チャチャポヤの文化的景観による世界遺産登録申請
 クエラップ遺跡の世界遺産登録申請に向けた戦略として、「クエラップ遺跡単体による登録申請」に加え、「チャチャポヤ文化関連遺跡群のシリアル登録申請」と「チャチャポヤの文化的景観による登録申請」の3つの選択肢について検討した。調査では、対象地域内には現時点で顕在化していない数多くの遺跡、比高1,000mを超す高地の自然条件に適応したアンデス地域特有の伝統的な農地景観、時代の変化とともに更新、進化を続けてきた集落景観、山岳や崖地、洞窟、湖、河川などの聖地としての自然景観が現在まで継承されていることが確認できた。さらに、各集落では、伝統技術や祭などの多様な無形遺産が受け継がれていることも明らかになった。
 このように本地域は、世界遺産における文化的景観の枠組みのなかの「連想される景観」を主テーマとしつつ、「化石化した景観」「継続する景観」を併せ持つ文化的景観を呈しており、世界遺産登録申請の戦略として、「チャチャポヤの文化的景観による登録申請」に絞りこむことをペルー国文化省と確認した。

エコミュージアムによる遺産管理
 チャチャポヤの文化的景観は、地域内に点在する遺跡に加え、アンデス地域特有の農地景観と集落景観、特徴的な自然景観などの資産により構成される。これらの多様な資産を有する文化的景観をリビング・ヘリテージとして保存管理するためには、景観の価値を説明する補完的要素としての動産遺産や無形遺産の継承が必要であり、継承の担い手である地域コミュニティの関与が不可欠である。そのため本業務にあたっては、地域全体を屋根のない博物館と捉えて、地域の多様な遺産をテーマ別に解説する「エコミュージアム・コンセプト」に基づいた「コミュニティ・ベースド・ツーリズム(CBT)」による遺産管理を基本方針として住民参加の取り組みを進めた。各地域コミュニティに協議会を設立し、文化的景観による世界遺産の考え方やエコミュージアム及びCBTに関する住民の理解を深め、参加意識の醸成を図る一方で、これらの作業を協働で進めることにより、文化省の技術者に対して住民参加による遺産管理計画策定に関する技術移転を行った。

ペルー人考古学者との共同現地調査

住民による無形文化遺産の紹介

RESULTS結果

文化的景観マネジメントの今後の課題

文化的景観の総合的なマネジメント体制の整備
 ペルー国内法における文化的景観制度は、ようやく指定の動きが始まったばかりである。文化的景観は広大な範囲を対象とすることから、文化遺産として保護するためには、新たな制度の導入が必要である。本業務では、日本における文化的景観の保存管理制度を参考に、文化省だけでなく、関連省庁との連携や住民参加による遺産管理の方法について文化省側に伝えてきた。その結果、業務期間の最後に関係省庁を招待したセミナーが文化省主催により実施された。このセミナーでは、世界遺産登録申請の戦略とエコミュージアムによる文化遺産管理の基本方針について関係者間の理解を深めるとともに、関係省庁の連携と地域コミュニティの参加の重要性について共通認識を持つことができた。今後、文化的景観のマネジメントを進めるにあたり、多様な構成資産の保存と持続的な観光利用を目指した具体的な制度構築に取り組んでいく必要がある。

CBTによる文化遺産管理の実践と周辺地域への展開
 各地域コミュニティで開催した協議会を通して、エコミュージアムやCBTの考え方について、概ね地域住民の理解を得ることができた。今後はこの考え方を基に地域コミュニティが主体的に文化遺産管理とCBTの実践に携わっていくことが重要である。あるコミュニティでは、協議会を開催した際に、日本人側からのリクエストではなく、住民自らが企画して、地域の伝統工芸の腰機による毛織物と郷土料理を、伝統衣装を着て紹介してくれた。まさに将来的なCBT展開の可能性を感じさせた場面であった。今後、各地域コミュニティが、それぞれの地域に残る遺跡や自然、生業景観、動産遺産及び無形遺産を地域の宝として再認識することにより、それらを守りながら観光利用する方法を自ら考えてCBTを実践するとともに、ウトゥクバンバ渓谷域全域へ展開させていくことが期待される。

聖地クチャクエラ湖

伝統的な腰機による織物づくり

アンデス地域特有の農地景観

MAP地図