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アルメニア歴史博物館における染織品の保存修復ワークショップ

Workshop on textile conservation at the History Museum of Armenia アルメニア歴史博物館における染織品の保存修復ワークショップ

国際交流基金

アルメニア共和国

アルメニアの染織品

2011年〜2013年 保存修復,人材育成
2014/04/01
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BACKGROUND背景

アルメニアの刺繍と絨毯の製作技術が守る染織文化遺産

アルメニア
 アルメニア共和国は西にトルコ、北にグルジア、東にアゼルバイジャン、南にイランと接する南コーカサスに位置する内陸国で、1991年にソビエト連邦から独立した。アルメニア高地のアララト山はノアの箱舟の漂着地とする説で有名である。301年に世界で最初にキリスト教を国教と定め、アルメニア正教会は教義や建築において独自の発展を遂げ、その総本山であるエチミアジン・アルメニア正教会や周辺の7世紀の教会建築群は世界遺産に指定されている。その宝物館には精緻な刺繍を施した数多く精聖職衣が残され、キリスト教と刺繍が深く関わった染織文化の一端が見られる。

アルメニア歴史博物館における染織文化財の保存修復事業
 首都エレヴァン市の共和国広場に面して建つアルメニア歴史博物館は石器時代から現代までのアルメニア史に関する展示がみられ、民族衣装と刺繍、そして絨毯の展示室がある。中世にモンゴル、トルコ、ペルシャに統治されていた影響で、服飾には左前に着装する丸首の蒙古服の影響やペルシャ的な捺染木綿が見られた。衣装を精緻な刺繍で装飾するのが特徴で、特に針に糸をかけて輪をつなぐジャニャックで製作する立体的な草花は特徴的である。絨毯もアルメニアの神話と宗教に関わる文様を織り込み、技術的に洗練された数々が見られた。考古染織遺物には紀元前3500年の革靴や毛織物類が出土しており、数点展示されていた。これらの保存修復に関わっているのはソ連時代に修復教育を受けた染織品保存修復士が1名とその指導下で絨毯の修復家が1名おり、基本的に刺繍と絨毯の製作技術で修復していた。ソ連時代以降知識を得る所がなくなり、実のところ、染織文化財としての民族服飾や絨毯の保存修復を行えるのはアルメニア全土でこの2名だけであった。歴史と伝統のあるアルメニアの染織文化遺産を継承してゆく上で、保存修復専門家の育成は急務である。

ジャニャック(針と糸のルーピング)によるノアの方舟

刺繍と絨毯を売る市場

ACTIVITIES活動内容

アルメニア歴史博物館共催による染織品修復ワークショップの開催

 日本はアルメニアの文化遺産保存修復分野においてマテナダラン古文書館と国立美術館に対して機材供与をして支援してきた。アルメニア文化省は更なる支援を日本に求め、文化遺産国際協力コンソーシアムが2011年に状況調査を実施し、染織文化財の保存修復に関わる支援要請が挙げられた。そこで具体的な支援策を策定するために2010年4月に(財)平山郁夫シルクロード美術館から助成を受け、アルメニア文化省博物館局の協力で首都近辺の主要な博物館を調査した。そしてアルメニア歴史博物館が受け入れ機関となり、同博物館と他館の職員を対象としたワークショップ形式の人材育成プログラムを実施する運びとなった。2010年10月に国際交流基金の文化協力主催事業として第1回目のワークショップがアルメニア歴史博物館共催で開催され、2013年度まで継続する。
 アルメニア側は保存修復の技術よりも、アクセスしにくい保存修復の情報を欲しており、日本語から翻訳したアルメニア語(英語対訳つき)のテキストを作成した。それを通じてすでにある知識と新しい情報を体系化し、保存修復技術として生かせるような実習形式のワークショップを実施した。
 日本側の講師は石井美恵(東京文化財研究所客員研究員、染織品保存学)、有村誠(金沢大学准教授、西アジア考古学)、横山翠氏(NHk文化センター講師、刺繍)、アルメニア側受講者はアルメニア歴史博物館、マテナダラン古文書館、エチミアジン・アルメニア正教会、国立アルメニア民族・自由闘争の歴史博物館、国立美術館の学芸員、民俗学者、収蔵管理者、および染織品、紙、考古遺物の保存修復士ら8-12名であった。

民族衣装展示室での開会式

染色実習

顕微鏡による布の調査

RESULTS結果

ワークショップによる技術移転と課題

 ワークショップは1年に2回、10日前後の日程で講義と実習形式で実施した。各博物館からの参加者は継続的に参加することで、保存修復の理論を理解し、技術的にも向上してきた。アルメニア歴史博物館の染織品保存修復士らに限って言えば、新しい知識を実践の場で生かし、収蔵品の修復や展示へのアプローチには目に見える変化が伺えた。
 ワークショップはアルメニアの主要な博物館から染織文化遺産の保存に関わるスタッフが集まる機会を提供し、ネットワークづくりに役立っているとの声が寄せられた。本事業は「日本とアルメニアの国交樹立20周年事業」に認定され、アルメニア文化省の計らいでワークショップの様子は同省のホームページ、国営テレビ、新聞でも紹介され、両国の文化遺産保護を通じた国際交流の様子は一般の人々にも知られている。今年度で事業は終了するが、ワークショップのテキストを教科書として再編集して配布する他、修復した服飾品等をアルメニア歴史博物館で展示し、染織文化遺産保護に係わる二国間の交流事業について一般むけに公表する予定である。
 交流事業を通じてアルメニア側の染織文化遺産保護と専門職の育成に対する意識が高まってきた。日本とのつながりも深くなり、どのように継続的にフォローアップしてゆくか、長期的な支援体制を作ることが今後の課題である。

国立アルメニア民族・自由闘争の歴史博物館の絨毯展示(左) 絨毯の修復(右)

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