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ナン・マドール遺跡状況調査

An investigation of the Nan Madol archaeological site of Pohnpei ナン・マドール遺跡状況調査

文化遺産国際協力コンソーシアム

ミクロネシア連邦

ナン・マドール遺跡

2011年 基礎研究
2011/12/01
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BACKGROUND背景

太平洋の古代都市〜ナン・マドール遺跡

謎に包まれた巨大遺跡
 太平洋のミクロネシア連邦ポーンペイ島には、約1.5km×0.7kmの範囲に玄武岩で構築された95の人工島で造られたナン・マドール遺跡がある。この遺跡は、西暦500年頃からおよそ1000年をかけて建設され、それぞれの人工島が王宮・神殿・王墓・居住域とした役割を持つ複合的な都市遺跡である。人々はこれらの人工島の周りをカヌーで往来していたと考えられており、この様子から「東洋のベニス」とも形容される、大洋州で最も大規模かつ壮麗な文化遺産として知られている。
 ナン・マドール遺跡は現在でも多くの謎に包まれている。例えば、遺跡を構成する玄武岩は、最大のもので90トンと推算されるが、この石を10km以上離れた産出場所からどのように運び、積み上げたのかは現在でも解明されていない。

遺跡の保護と世界遺産登録
 学術的にも観光資源としても重要な遺跡ではあるものの、遺跡の保護に向けた体制は未整備である。したがって以前より、遺跡周辺の植物の繁殖や、遺跡の崩壊などの進行が懸念されていた。また、大洋州は地球の三分の一を占める広大な地域であるにもかかわらず、ユネスコの世界遺産に登録されている数は非常に少ない。こうした中でミクロネシア連邦政府は、ナン・マドール遺跡の世界遺産登録を切望し、このための協力をユネスコに求めていた。
 遺跡の保護と世界遺産登録を目指すためには遺跡の現状を把握する必要があり、このための調査団の派遣要請がユネスコ大洋州事務所を通じて文化遺産国際協力コンソーシアムに寄せられた。

遺跡の崩落状況

ナンマドール遺跡の一部

ACTIVITIES活動内容

遺跡の現状把握のための調査団派遣

 ユネスコ大洋州事務所からの要請に基づき、文化遺産国際協力コンソーシアムでは2011年2月に調査団を派遣した。20年以上に渡りナン・マドール遺跡研究を続ける片岡修教授(考古学)も調査に加わったことで、調査はより効果的に進められた。

遺跡状況のモニタリング
 遺跡の保存状況モニタリングと遺跡保護体制の聞き取りを中心として調査は進められた。モニタリングでは限られた時間内で効率よく調査を遂行するために、95の人工島のうち口承伝承と既存の考古学研究で優先順位の高い遺跡を抽出した。干潮時には観光用トレイルを利用し、満潮時にはボートを利用して遺跡に上陸し、それら抽出した遺跡の調査を行った。ここでは、目視により遺跡平面図上に現状を記載し、遺跡の危険状況を示す地図を作成するとともに、デジタルカメラとビデオを用いて記録を取り、記録をもとにして遺跡損傷の要因を検討した。

複雑な保護体制
 遺跡は島の歴史・伝統文化と密接に関連しており、そのため遺跡の保護に関わる利害関係者は政府以外にも複数存在するという複雑性を持っていた。今回の調査ではミクロネシア連邦やポーンペイ州の歴史保存局で保護体制を聞き取るとともに、伝統社会の首長ナンマルキや、遺跡保存を目的として地域住民が組織したNGOを訪問し、遺跡保護への認識や各団体の保護への姿勢を確認し、重要な情報として報告書にまとめた。

遺跡内での植物繁殖

王の墓といわれるナン・ダワス(Nan Dawas)

RESULTS結果

ナン・マドール遺跡保護にむけて

今回の調査では遺跡が抱える問題を理解し、今後の課題を確認することができた。具体的には、①長期にわたる遺跡の石材の転用②樹木の繁殖③観光用トレイル建設によって変化した水流によるマングローブ繁殖④訪問者による踏みつけ⑤経年変化、などが物理的な問題として挙げられた。この物理的な問題が解決できない背景には、マスタープランの不在が深く関わっていた。
 マスタープランの作成には、伝統的社会と国や州政府の両当事者間で保護への同意と協力体制が不可欠である。今回の調査によって、それぞれの当事者は遺跡保護への強い意志を持ちながらも、相互の不信感により協同がなされてこなかったことも明らかになった。
 ミクロネシア政府が希望するユネスコ世界遺産の登録のためにも、また遺跡保全に向けた国際社会からの援助の受け皿を備えるためにも、関係当事者間の合意のもとに作成されたマスタープランの作成は不可欠と言える。今後コンソーシアムとしては、マスタープラン作成に向けたワークショプへの日本の専門家の協力を促進し、これらの協力を後方から支援していく。
 また、この調査の成果は報告書だけでなく遺跡の状況を示すパンフレットとしても活用した。地域住民に遺跡の現状をわかりやすく説明し、国際社会への支援を要請する際の資料として活用されることが期待されている。

作成したパンフレット

地域住民へのヒアリング

保存状況モニタリング

MAP地図