日本の紙文化財保存修復技術に関する技術移転

事業名称
日本の紙文化財保存修復技術に関する技術移転
国名
複数地域・国
期間
1992年~継続中
対象名
日本の紙文化財
文化遺産の分類
その他(考古遺物・美術品・文書)
実施組織
東京文化財研究所、ICCROM(文化財保存修復国際センター)
出資元
東京文化財研究所、ICCROM(文化財保存修復国際センター)
事業区分
人材育成、 保存修復

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背景

Background

日本の優れた紙文化財保存修復技術

千年以上に亘って残ってきた日本の紙文化財
 日本には絵画、書跡、文書などの紙文化財が屏風、掛軸、書籍などの形態で伝わっている。しかし日本の気候は、紙のような天然有機物を保存するにあたって、決して適しているとは言えない。四季の移り変わりは保存環境の変化を意味するが、物の保存には不向きである。さらに、温暖で湿潤な季節にはカビ、昆虫など生物の活動は活発になり、天然有機物は恰好の栄養源になる。それにもかかわらず、日本では古い紙文化財であれば千年以上経た現在まで伝わってきている。これは日本が優れた紙文化財の保存技術、修復技術を伝統的に有してきたことを意味する。

紙文化財修復技術
 日本の紙文化財の保存と修復は、和紙や小麦デンプン糊のような伝統的な材料と、それらを有効に活用する装こう修理技術により可能となる。装こうとは、表具、表装などとも呼ばれる。元々は中国起源の技術だが、日本で数百年以上に亘り発展、変化を遂げて現在に至っている。この技術を海外に伝えることで、世界各国の文化財の保存修復に貢献することができると考えている。

  • 表装、太巻き、桐箱、帙からなる掛軸の伝統的保存システム

活動内容

Activities

研修による技術移転

国際研修「紙の保存と修復」
 東京文化財研究所ではICCROM(文化財保存修復国際センター)と共同で国際研修「紙の保存と修復」を1992年より開催してきた。研修対象者は世界各国の文化財保存修復関係者として行ってきたが、現在は特に紙の保存修復技術者をターゲットにしている。2012年の研修までで、修了者は総計157人に上る。この研修は、日本の保存修復技術に関する直接的な内容はもちろん、それらの材料や技術が育まれてきた背景などにも焦点を当ててプログラムを作成している。
 さらに2012年度はICCROMの中南米を対象としたLATAMプログラムの一環として、メキシコにおいてINAH(メキシコ国立人類学歴史研究機関)も含めて三者共催で行った。

その他の研修の開催
 ドイツではドイツ技術博物館ベルリン、ベルリン国立博物館アジア美術館の協力を得て、屏風と掛け軸に関するワークショップを開催している。保存修復だけではなく日本絵画、書の製作技法や、取り扱いなども取り上げているため、東洋美術の学芸員、日本関係学科の学生などからも関心を寄せられている。
 JICAの「大エジプト博物館保存修復センタープロジェクト」では、2011年度に当研究所から専門家が派遣され、和紙を使った修復に関する研修を行った。ミイラや壁画等の修復技術者にも応用できるように、和紙や糊を使用するコンセプト・知識に関する講義や、実際に和紙と糊を使用した修復の実習を行った。

  • 研修―和紙漉き(国際研修「紙の保存と修復」)

結果

Results

海外での認知度の向上と問題点

参加者からの評価
 先述の研修に関しては、アンケートなどでも好評を得ている。参加者の募集には毎回多くの応募があるが、応募に至った経緯を尋ねると、過去の参加者からの推薦も多い。また、研修修了者から自国での類似研修の開催を希望されることも多い。このことからも、これまでの研修などが高評価であることが伺える。

研修開催の要望
 近年では欧米を中心に、和紙を使った保存修復が盛んになっている。特に紙文化財の保存修復技術者の間では、国際的に和紙を使うことが一般化しているが、文献などから間接的に知識を得ていることが多い。そのため、直接的に知識を得て体験するために、日本人によるセミナーなどの開催を要望する声が高まっている。例年、数か国から打診があるが、残念ながら費用、開催時期、会場、ヒューマンリソースの制限などから全てを実現するには至っていない。

技術の流布と問題の発生
 一方で、いくらかの問題が生じたことも否めない。
 例えば、これらの技術に不可欠な和紙だが、実は、「和紙」には明確な規定がない。そのため、「和紙」と言うだけでは、原料繊維の種類や精製法、紙の製造方法の特定ができない。つまり、文化財の保存修復に適しているかどうか判断できない。和紙が着目されるとともに海外でも和紙を取り扱う業者が増えたが、間違った名前で和紙が販売されていたり、修復に適さない和紙が修復用として提供されていることもある。
 日本の伝統的紙文化財保存修復技術や材料が優れているという認識が広まってきた今、海外で認知、使用されている材料や技術を確認し、それらに関する誤った知識を訂正したり、材料を正しく選択するための知識を教授することにも力を入れている。

  • 研修―和紙と小麦デンプンを使った補強

  • 海外における日本の装こう修理技術利用に関する研究会

地図

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Projects

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