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第30回研究会(ウェビナー)「文化遺産×市民参画=マルチアクターによる国際協力の可能性」を開催しました

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 文化遺産国際協力コンソーシアムは、2021(令和4)年211日(金・祝)に第30回研究会「文化遺産×市民参画=マルチアクターによる国際協力の可能性」をZoomウェビナー形式にて開催しました。
※第30回研究会の開催概要・プログラムについては、こちらをご覧ください。

 この研究会では、日本国内で蓄積された市民参加の経験や官民協働のノウハウが活かされたヨルダンでの事例と、民間レベルの主体的かつ継続的な国際交流が多面的な活動実践へと展開を続ける台湾での事例をそれぞれの当事者に紹介いただき、文化遺産国際協力活動における多様なアクターの取り込みによって期待される今後の新たな可能性について議論が行われました。

 岡田保良副会長による開会挨拶では、文化多様性や価値観の違いに対する理解に基づいて立場の異なる関係者が協力しあうことが文化遺産保護を成功に導く要件として近年ますます重要視されるとともに、それらのステークホルダーが調和的に協働できる枠組みの構築が文化遺産保護の体制を持続する観点からも大きな課題となりつつあるとの認識のもと、地域住民の主体的な参画がとりわけ不可欠な、歴史遺産を活かしたまちづくりに焦点を当てることにした、との開催趣旨が説明されました。

 最初の講演では、村上佳代氏(文化庁地域文化創生本部文化財調査官)より、「国際協力によるエコミュージアム概念に基づく観光開発―ヨルダン国サルト市を事例として―」と題し、自身が青年海外協力隊・技術協力プロジェクト専門家として関わった約9年間の活動成果が紹介されました。

この国際協力機構(JICA)によるサルト市への観光開発支援は、日本のまちづくりの先進地である山口県萩市での地域文化資源を活用した住民参加型観光開発まちづくりの経験をモデルに、同市職員も専門家として加わりながら実施されました。

 地域住民の参加によって、その地域で受け継がれてきた自然や文化、生活様式といった資源を、持続可能な方法で保存・保全・展示・活用していくというエコミュージアムのコンセプトに基づいて、様々なアクターが集まり、話し合う場を提供するきっかけになったこと、また活動を通じて地域の文化遺産が可視化されるだけではなく、住民自身が地域発展に関する認識を共有し、文化遺産の価値を再評価することにもつながるという意義が強調されました。さらに、コア博物館、サテライト、トレイルといった仕組みによって、観光客の圧力から地域の伝統文化を護りつつ、文化観光の実現につながったといいます。

 このように、地域文化の保護と観光による地域発展を両立させる仕組みとして、エコミュージアムの考え方の有効性が示されるとともに、これによるまちづくりを進めていく上では、それぞれの個人や組織の強みを活かし、役割を明確化して計画に落とし込み、段階ごとに適切な関係者を巻き込んでいくことの重要性が説明されました。

 続いて、丘如華氏(台湾歴史資源経理学会事務局長)より、「歴史遺産保存における連携―学び合いの旅―」と題し、数十年にわたる多彩な活動経験が紹介されました。如何に地域における歴史遺産の保護に直面する困難と向き合うかという姿勢や、住民の文化遺産保護の啓発、地域課題における解決の糸口を検討するプロセスについて報告しました。

 丘氏は、民間の立場で住民たちと柔軟に協働しながら、郷土愛を引き出し、各地の特色を掘り起こしながら、歴史遺産の保護とそれを通じた地域課題の解決に取り組んでこられました。その活動の舞台は台湾にとどまらず、全国町並み保存連盟をはじめとする日本各地の町並み保存団体と友好関係を育み、様々な行政機関、学識経験者や民間の歴史遺産活動家、地域住民とともに学びながら、東南アジア諸国の歴史遺産保存におけるネットワーク構築にも尽力されてきました。歴史遺産保存活動において重要なのは単なる歴史的建造物の修復ではなく、ゆっくりと時間をかけて、人々が学び合い、交流することであるという、活動の基本的考え方が紹介されました。

 国を超えたネットワークの構築においては、地域ごとに環境や法律などの条件は異なっていても、大切にすべき遺産、尊重すべき歴史があることは、どこでも共通しています。専門的な知識、技術や資金を投入することではなく、市民が互いに平等な立場に立ってそれぞれの経験を学び合うことによって草の根的な文化遺産保護活動をアジア諸地域に広げていき、その先に文化の違いも含めて互いに尊重しあう国際的なマルチアクター連携を実現したいというという目標が語られました。

 後半のパネルディスカッションでは、上記2名の講演者のほか、西村幸夫氏(國學院大學教授)をパネリストに加え、佐藤寛氏(アジア経済研究所上席主任調査研究員)の司会のもと、活発な議論が展開されました。

 はじめに西村氏より、自身が長年取り組んできた歴史都市における文化遺産保全の観点から、ヨルダンと台湾の活動における市民参画実現手法との共通点についてコメントされました。人々の暮らしの場である文化遺産においては、他の文化遺産保護活動でのアプローチと異なり、当事者間の利害関係に配慮しながらいかに合意形成を図るかが最も重要であって、その過程では、一方的に学術的あるいは専門的権威の価値観を押し付けるのではなく、多様なアクターがお互いに理解の土台を築いて文化遺産の価値を共有する努力が大切だと述べられました。また、このようなボトムアップ式の仕組みづくりには、それを仕掛けられるメンタリティや、人々を巻き込み合意形成できるセンシビリティが重要で、異なる文化、価値観、立場の関係者が互いに協力しあうことが成功のための鍵でもあると強調されました。

 その後、参加者からの事前質問も踏まえて議論が行われ、マルチアクターとは誰か、マルチアクターの協調に必要なこと、市民参加のための働きかけの工夫とはなにか、特に国際協力の場合に市民・住民のニーズと外部者(専門家など)の視点や意見が異なる際にどう調整すべきか、といった論点を中心に意見が交わされました。

 特定の計画に基づいて段階を踏みながら、多様なステークホルダーが調和的に協働できる枠組みへと導いていったヨルダンの事例と、異なる文化、価値観、立場の関係者が意識を共有して共に活動ができるまで時間をかけて取り組んでいった台湾の事例とではアプローチは異なるものの、それぞれのアクターが求めることを見出して学びあい、とりわけ若い世代を巻き込むことが必要という認識は共通しており、文化遺産保護分野における国際協力活動の継続性を担保する上でも重要であることが確認されました。

 最後に、モデレーターの佐藤氏が、生きているまちに関わり、変化を促し、様々な活動を推進していく中では、単に経済成長を目指すのではなく、誰一人取り残さず、より良い社会を共に作っていくという、SDGsの精神を実践することが不可欠である、という言葉で研究会を締めくくられました。

 当日は120名近くの方々にご参加いただきました。本研究会の開催にご協力いただいた関係者ならびに参加者の皆様に、改めて御礼申し上げます。

 

 

※※研究会を収録した動画は、こちらをご覧ください。

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