発掘したらとにかく記録・記録・記録! まずは、どこから出土したのかを測量器で測定して平面図に記録します。現場では「位置を落とす」という符牒で言ったりしますね。
土器を水洗いして乾かします。土などを洗い落として土器の表面の状態や色、そして形を確かめるためです。一つひとつナンバリングしていく作業を「登録する」と言ったりします。
どうして発掘の世界に?
とにかくメソポタミア文明に興味がありました。いわば文明発祥の地ですからいまだに興味は尽きません。発掘に関しても、出土する遺物の量や種類が圧倒的ですね。
さてここから、土器の形を様々な角度から紙に落とし込んでいきます。まずは破片を観察して正しい角度を推測します。特徴的な土器だと写真も撮りますがほとんどは手書きの線画で残します。
発掘にはどんな人が向いていますか?
根気のある人ですね。ご覧の通りとても地味な作業ですから、黙々と単純な作業をこなす忍耐力が必要です。ちなみに海外の発掘調査隊ですと比較的分業体制になっていますが、日本の考古学者は測量から図面作成までなんでもできる方が多いですね。
最初は実際に土器をなぞってみます。断面を記録するため、ノギスやキャリパーで厚みも測りますが、まずは手で触ってみて、厚みが変わったポイントを数点ピックアップしていきます。一度に大量の土器や破片が見つかることが多いので、スピードも大事。慣れてくるとどこを計測するべきかなどのノウハウが蓄積されてきます。
この作業、好きですか?
えーと(笑)。率直に言うと、好きではありません(笑)。助手やアシスタントがいれば任せてしまいたいです。でも、こうやって数をこなすことで様々な知識や経験が蓄積されていきますからね。一概に、単純作業として誰かにやって貰うほうが良いとも思えないです。
立体的な形状は、この真弧で測ります。使い方としては型を取るような要領ですね。この竹を使ったコンフォーマターは日本独特だと思います。金属などだと傷を付けたりしかねませんので、これは遺物に優しい工夫ですよね。考古学的に年代を特定する要因となる部分は特に丁寧に測ります。
写真に撮ったり3Dスキャンしたりしては?
わざわざ手書きで線画を描かなくても3Dスキャナーなどでスキャンすればいいのでは?とも聞かれますが、これが意外と、手書きで省略して記録した方がしっかりと特徴が見て取れるという利点もあるんです。同じ理由で全てを写真撮影してしまうより、このように情報を抽出して記録するほうがデータとして参照する時に有益ということもあるんです。
土器の色も記録します。そのための土の色用のカラーチャートがこちらです。古代の土器ですから、1つの土器でも表裏や部分々々で色が変わっていますから、それも記録します。この部分は濃い黄色、この部分は薄い黄色とかですね。
アナログ過ぎない?
確かにアナログです。最近ではたとえば上空からドローンで写真測量するというような記録の仕方もありますが、まだ測量器で一つひとつ測量する方が精度が高いようです。ただし人工知能やドローンなどが活躍する日もそう遠くはないと思います。これまでは人間が、地形的な特徴や風景から直感的にこのへんには遺跡がありそうだとアタリをつけていたのですが、そういったポイントを自動的に感知することができるようになるかもしれませんね。
最終的には、手書きの記録をスキャンして、ペンや描画ソフトを用いてトレースし、このような報告書にまとめます。発掘の状況や土器についての情報がこれを見れば誰でも分かるわけです。このように情報が蓄積され、共有されていくことで、考古学全体の研究が発展していくわけですね。
大発見!と思ったら勘違い。
キルギスで発掘した時のことです。1万3千年前の地層から土器の破片が出たんです。もしそれが本当に1万3千年前のものだとすると中央アジアで最古の土器を発見したことになります。帰国の飛行機の中で論文のタイトルを考え続けていましたよ。ところが、帰国して科学的に分析すると約3500年前のものでした。がっくりしました。でも、まあ、そういうことの繰り返しがある意味魅力なんですよね。