共同到達目標を掲げて議論
日本・アセアン9ヵ国と会場国カンボジアは、当該国の博物館担当者(館長および学芸員を含む)をカンボジア、アンコール・ワットに招き、アンコール遺跡群の現場を見学した後、数万点におよぶ未公開の遺跡遺物(一部損壊した彫刻など)を収蔵するアンコール遺跡保存事務所(旧フランス極東学院)を見学し、さらに2001年バンテアイ・クデイ遺跡から発掘された出土品を展示するため、2007年に上智大学が建設したシハヌーク・イオン博物館に、新しく持ち込まれた開発遺物を調査している。
以下に、本事業の目的を報告する。
①未公開のまま保管している「遺跡遺物」と道路ホテル・工場・家宅などのインフラ建設で出土した「開発遺物」を採り上げ、展示・公開に向けて、今後どのようにこれら両遺物を公開へともっていくか、アセアン諸国の博物館が直面している新しい課題を検討するための国際ワークショップの開催である。
カンボジア・アンコール遺跡の展示・公開に際しては大きな課題がある。まずは、国宝級の遺物を含め、遺跡遺物(*1)や開発遺物(*2)がどのように公開・展示・研究がなされるか、についてカントリー・レポートとして現状報告を行なった。展示がまだされていない場合は、その理由および将来計画があるかどうかを問うプロジェクトであった。
*1 遺跡遺物:遺跡の整備公開が進み、主たる大遺構以外の小遺物は盗難の恐れもあり、収蔵庫に収納されてしまった遺跡遺物のことである。
*2 開発遺物:国内のインフラ建設のため、各地において建物・道路・農業用水等のため開発工事が実施され、その時、地中から文化財遺物が出土し、それが各国の博物館に収納されている。
アセアン9ヵ国には、カンボジアと同様の未公開の開発遺物と遺跡遺物の問題があり、カントリー・レポートとしてこれら未公開遺物について各国から報告を受け、博物館担当者同士として公開に向けての問題点を整理し、その事例を発表した。
〈目的その3〉
アセアン9ヵ国の博物館に収蔵された未公開遺物について、民族の文化遺産継承の観点、その展示公開の可能性について、意見交換を行なった。この未公開遺物問題は、お互いに頭の痛い問題であり、初めてこのアセアン10カ国の場で採りあげ、情報交換する。
〈目的その4〉
各国は国土開発が進み、膨大な考古・歴史遺物が各地から出土し、発見され、法律により博物館に届けられるが、未公開遺物の展示・公開は難渋を極めている。これら未公開遺物の協議を通じて、アセアン担当者同士の新しい相談ネットワークが築かれ、問題解決に向けての方策を探るプロジェクトである。
〈目的その5〉
アセアン各国に共通する未公開遺物問題の情報交換を通じて、近未来の「大アセアン文化博物館」の戦略を議論する。さらに、各国の未公開遺物に端を発し、各国の博物館が協力したアセアン独自の「地域協力モデル博物館」を構築していくか、検討していく。