東南アジア5ヵ国における文化遺産保護のための拠点交流事業

事業名称
東南アジア5ヵ国における文化遺産保護のための拠点交流事業(文化遺産国際協力拠点交流事業)
国名
複数地域・国
期間
2014年~2016年
対象名
アンコール遺跡群、ワット・プー、スコータイ、アユタヤ、パガン、カ・ティエン
文化遺産の分類
記念物、 遺跡
実施組織
上智大学アンコール遺跡国際調査団
出資元
文化庁
事業区分
地域開発、 人材育成、 マスタープラン作成

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背景

Background

東南アジア5カ国石造遺跡保存修復をめぐる議論

(A)「メコン流域文化遺産プロジェクト」は第1に文化財の保存修復関係者のネットワークづくりを目指す:その目的と方法論から:①東南アジア大陸部メコン川流域の石造遺構の保存・修復を介した専門家の人的ネットワークづくり ②東南アジア5カ国に存在する石造建造物遺跡の調査・研究・保存・修復という具体的な作業現場の活動を通じてカントリー・レポート発表、③建築時における地域の伝統技法解明と検証の報告、④新修復技法による修復事例の報告、⑤修復箇所の経過観察報告、⑥担当者が描く遺跡の地球文明史的位置づけ・仮説、⑦修復作業報告(現地語)、⑧この東南アジア5カ国と日本の共同作業を通じて東南アジアと日本との間の技術移転、強固な人的信頼関係を構築。⑨当該国スタッフたちによるカントリー・レポートが深く掘り下げられ、⑩建造物の修復と考古発掘調査により、当該地域の文化遺産の持つ歴史や地域文化や特性を科学的に明らかになる。⑪個々の文化遺産の個性や特色を把握するためには、世界史規模の視座の中で、地域的・時代的・サブジェクト別の比較研究が不可欠である。⑫この目的達成のためには、「遺跡の保存・修復」という直接「モノ」に関わる側面と、「技術者・研究者の養成」という「ヒト」に関する側面との両方を同時並行に行うというアプローチをとった。⑬研修および調査・研究・報告会の会場は日本を離れ、同じ東南アジアのカンボジアに在る上智大学アジア人材養成研究センターを拠点とする。⑭5ヵ国の出席者の研修場所は、アンコール・ワットおよび考古学系はバンテアイ・クデイ遺跡とする。

活動内容

Activities

東南アジア5ヵ国の石造遺産の「保存と修復」の原点は何か

<東南アジア5ヵ国と日本(上智大学国際調査団)は次の原則を踏まえ、その成果を公表する>
 保存修復の原則とは、壊れたもの、壊れかかった「モノ」を「直す」だけではない。それがどういう材質で出来ており、どういう様式で、いつの時代に造られたか等を正確に理解せずに、修復したとすれば、本当の意味で「直した」ことにならない。保存修復というのは楽天的に「壊れたものを直して後世に残せばよい」と単純に考えるわけにはいかない。寺院(遺跡)を造営した当時の「人たち」を主人公とした史実を中心に近隣の村にその伝承があるかどうかを調査、原則は技術的に保存・修復が可能でも、「歴史の解明」がされないところに、真の意味での保存・修復は不可能であると考える。

<民族のアイデンティティと地域のアイデンティティに立脚した文化遺産>
 遺跡の保存・修復活動は、学術的、文化的、民族的に相当大きな波及効果を持っている。特に、その国の人々が人類の文化史の文脈から自国の文化活動を見直し、文化的独自性を再確認する手がかりを発見できるという大きな意義がある。どの民族も自己の独自の出自に出発点を求めるものは、民族文化遺産に対してであり、その文化遺産の学術的解明は、史実の再発見および民族的誇りをその民族に与える。そこには民族の誇りと歴史が塗布されているからである、とりわけ、東南アジア文化遺産の学術的解明には日本との文化関係において多くの新しい歴史的知見を与えてくれる可能性がある。

結果

Results

東南アジアの保存官・専門研究者による東南アジア文化遺産の保存修復を掲げての自前発掘・自前修復を目標に

 5ヵ国と日本(上智大学)は、「各民族の遺跡の保存・修復の最終的な責任はその民族の中の優秀な技術者・研究者が担う」という原則を目指す、その体制づくりを確立していく必要がある。保存・修復の遺跡現場が、学術研究の中核もしくは研究センターになるだけでなく、その民族の新たな芸術・文化の創造を発信する基地になることが求められている。保存科学の技術者・研究者の養成は、広く現地で、その国で暮らす人々の中から優秀な技術者・研究者が担当することを目標としなければならない。保存・修復の学術研究と現場の作業活動を通じて、東南アジアの人たちおよび日本が国際協力に立脚した信頼関係を構築していくことになる。

メコン川流域石造遺構保存修復ネットワークを介した日本との強固な人的信頼の構築および技術開発と伝統技法の発見と修復応用作業の構築

 東南アジア大陸部5ヵ国の文化遺産プロジェクトの国際協力の目的は「遺跡の保存修復事業を通じて日本と東南アジアの人々との強固な人的信頼関係を結ぶ」というものである。一言でいえば、基本的立場は、「国際協力とは人間の協力である」という極めて単純なものである。個々人が今までもってきた信頼関係を発展させ、いろいろな地域・専門領域の専門家を様々なレベルで結びつき、人間の信頼ネットワークの網を広げることを出発点とする。肌の色、言葉の違い等を突き破り、個々人のレベルでどれだけ「国境のない信頼関係」が創れるかに、このプロジェクトがかかっているといっても過言ではない。

「東南アジア大陸部5ヵ国の石造遺構保存修復ネットワーク・プロジェクト」における国際協力とは何か

 東南アジアは、雨季と乾季のある熱帯モンスーン気象条件を踏まえて、東南アジア特別仕様の文化遺産保存・修復・整備の方法論および技法論が求められ、それが熱帯モンスーン・アジアの「文化遺産保存修復マスタープラン」である。
 タイ・ベトナム・ミャンマー・ラオス・カンボジアの5カ国と日本は、東南アジアのメコン川流域石造遺構の文化遺産に特別の関心をよせ、共同研究を国際協力方式で開始した。これら5カ国と日本における石造り城郭都城の文化遺産が直面する倒壊の原因は、おおまかにいって植物の小芽・雨水・カビが3大元凶であることが判明している。高い温度と強烈な太陽という劣悪な状況に対する保存方法の検討、建材(砂岩・ラテライト・レンガ等)の劣化原因と独自の保存・修復の技術方法論等の究明が求められる。各国とも保存・修復について模索中である。
 出席する遺跡現場の担当者および修復技術者・研究者は各遺跡におけるLocal Know-How技法を報告してもらい、その後継者の養成についても報告を求めた。また、遺跡現場担当者の人的ネットワークの構築も進めた。史跡整備とそれに伴う公開方式(歴史公園・サイト・ミュージアム等)の問題について、各国の事例をカントリー・レポートの形で発表し、共通の問題点を取り出し、将来に向けて討論した。

東南アジア版文化遺産国際協力モデル構築に向けて:

 東南アジア5カ国と日本はこれまで、①熱帯アジア立脚型の保存修復技術の構築、②雨水・カビ・植物を意識した調査・研究の方法論、③公開方法とサイト・ミュージアムなど、共同で討議し、効果的な技術移転を図った。今後も東南アジア版国際協力モデルの構築を続けていく。
 この遺跡現場における交流および5カ国の文化遺産(アンコール、スコータイ、アユタヤ、ワット・プー、パガン、チャンパ―、カ・ティエンなど)の紹介プログラムを通じて、民族を超えた共通の「東南アジア文化アイデンティティ」を醸成し、アセアン諸国の団結と文化的・心理的連帯が生まれてくることを願っている。出席者によるカントリー・レポートを通じて共通する文化基盤、土地の精霊と地域の協働意識(ムシャワラの精神)、村落の信仰に立脚した寺院共同体などにも言及してもらう。

  • 開会式および出席者のみなさん写真

  • 東南アジア5カ国代表団ワークショップ:カントリー・レポート発表および質疑応答風景(2015年8月16日~18日)

  • 東南アジア5カ国における文化遺産保護国際ワークショップ。開会式(2015年8月13日)

  • 東南アジア5カ国代表団の修復現場調査③バンテアイ・クデイ遺跡(2015年8月15日)

  • 東南アジア5カ国代表団の修復現場調査②プノン・バケン遺跡

  • 東南アジア5カ国代表団の修復現場の調査①タ・ケウ遺跡(2014年8月15日)

地図

Map

執筆者

石澤 良昭

上智大学アジア人材養成研究センター所長(特任)

Projects

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