イスラーム陶器は博物館に収集された後、20世紀初からヨーロッパ人研究者によって論文と概説本が著された。研究当初からエジプトのフスタート遺跡(カイロ)出土品が資料として取り上げられ、一方でイランの各地から集められた陶器がヨーロッパの博物館に収められて研究資料となった。20世紀後半にイギリス人によりイスラーム陶器概説本が書かれ、現在まで定説となっている。しかし、遺跡出土品にはさまざまなものがあり、考古学の研究成果を使用したイスラーム陶器の論文と実態に基づく概説本が必要である。
地域社会の文化遺産から探るイスラーム陶器の文化的変遷
- 事業名称
- 地域社会の文化遺産から探るイスラーム陶器の文化的変遷
- 実施地域・国
- アラブ首長国連邦
- 地域
- 中東
- 事業実施機関
- 金沢大学
- 期間
- 2004年 ~ 2007年
- 協力の種類・事業区分
- 学術調査・研究
- 資金源
- 科研費
背景
活動内容
イスラーム陶器の時期別の種類分類と産地・年代に関する研究を、ペルシア湾岸・オマーン湾岸で発掘調査した遺跡出土品、ウズベキスタンとアフガニスタンの中央アジアの施釉陶器分類調査資料を核として行った。中央アジア・西アジアではイスラーム陶器が広範な地域のどの遺跡からも出土するため、遺跡の年代、居住者の性格を読み解く歴史資料として共通言語の役割を果たす。佐々木がすでに発掘調査した遺跡出土イスラーム陶器のうち、シャルジャ国立博物館、フジェイラ国立博物館に保管された資料を整理し研究資料として用い、バハレーンの国立博物館、アフガニスタンのバーミヤーン、ウズベキスタンのサマルカンドの施釉陶器を資料化した。博物館倉庫内資料から研究に使う陶器を抽出し、撮影、実測、記述した。新たな資料をコールファッカン遺跡発掘によって採集した。年代研究はイスラーム陶器の組み合わせ枠が出来ると年代提案ができるようになる。細部にわたる小さな問題点を取り上げた論文を作成し、編年表の基になる年代研究を行う。7世紀から19世紀に至るイスラーム陶器の変遷資料をコンピュータ内に並べ、これまで継続してきた科学分析や文様研究も日本国内で併せて実施した。こうした資料をもとに型式分類によるイズラーム陶器編年表を作成した。
〔2004〕
今年度は地域社会のなかで遺跡出土のイスラーム陶器を研究することを目的に、フジェイラ町跡とコールファッカン町跡の2カ所の発掘を実施した。フジェイラ町跡は18〜19世紀のイスラーム陶器が出土し、地方農村のイスラーム陶器の使用状況と出土品の実態を明らかにできた。コールファッカンは14〜15世紀の港町跡を発掘し、中国陶磁器や東南アジアの陶磁器とともに出土するイスラーム陶器を資料化した。
以前に発掘したジュルファール遺跡の性格を港町としてとらえる研究を行い、大量に出土した14〜15世紀のイスラーム陶器の整理を継続している。白濁釉陶器については整理が完了した。ルリーヤ砦出土のイスラーム陶器については、13世紀末の基準資料となることを提示した。これらの研究成果は学会発表を中心に公表しているが、それらは学会誌に掲載する予定で、投稿中の論文もいくつかある。
〔2005〕
平成17年度に実施した研究は、平成16年度の継続が中心である。とくに今年度は佐々木がすでに発掘調査した遺跡出土イスラーム陶器のうち、シャルジャ国立博物館、フジェイラ国立博物館に保管されたものを重点的に研究した。研究方法は博物館倉庫内に積み上げた資料から今回の研究に使う陶器を抽出し、それらを撮影、実測、記述し、さらに関連資料について、他の博物館の調査を行った。博物館内での作業が中心となったが、新たな遺跡踏査も現地情報を得ながら実施した。9世紀から18世紀に至るイスラーム陶器の変遷資料をコンピュータ内に並べ、これまで継続してきた科学的分析や文様研究も日本国内で併せて実施した。こうした資料をもとに型式分類による第1次仮説的編年表の仮作成が進んでいる。同時に細部にわたる小さな問題点を取り上げた論文をいくつか作成した。年代研究は同時出土の中国陶磁器との比較研究に依るところが大きく、中国国内の竜泉窯跡出土品の調査も実施した。イスラーム陶器の年代と産地研究が進んでいる。欧米博物館に保管されている関連陶器資料の調査も実施した。
〔2006〕
平成18年度の研究は平成17年度に実施した研究の継続が中心である。国外ではマサフィ砦、ディバ町跡、コールファッカン町跡を発掘した。第5次調査となるコールファッカン港町遺跡ではイスラーム陶器と中国・ミャンマー陶磁器が建物室内及び水タンクから出土し、イスラーム陶器の編年研究に良好な資料を提供した。
国内研究会でいくつかの成果を発表した。「ヘレニズム〜イスラーム考古学研究会」ではハレイラ島出土の青釉陶器の編年的問題を提起し、ササン・ウマイア朝時代の陶器編年を検討した。「オリエント学会」ではアッバース朝と唐代の陶磁器の技術的交流の実態を具体的な陶器を示して提起した。「西アジア考古学会」ではマサフィ砦から出土した近世陶磁器の世界的な広がりを紹介した。それらの資料を含めて愛知県陶磁資料館「ペルシアのやきもの展」で開催したシンポジウムで、イスラーム陶器の問題点と研究成果をまとめた。
今年度に論文となった成果。「オマーン湾岸北部地域の遺跡出土陶磁器」(『金沢大学文学部論集史学・考古学・地理学篇』27,203-282)は、これまで調査した遺跡出土の陶磁器のうち、オマーン湾岸の資料を整理し報告した。「西アジアに輸出された14〜15世紀の東南アジア陶磁器」(『地域の多様性と考古学』雄山閣、23-36)は、東南アジアの陶磁器がペルシア湾の遺跡からどのように出土するかをまとめ、イスラーム陶器との組み合わせ、量的関係、種類と器種の関係を層位別に描き出した。「ジュルファール出土陶磁器の重量」(『金沢大学文学部論集史学・考古学・地理学篇』26:51-202)は前年度末(2006年3月)の発表であるが、前年度の研究実績概要に取りあげなかったので、今回紹介する。遺跡出土陶磁器を種類別・層位別に重量を計測する仕事を成し遂げ、イスラーム陶器の全体的な様相を知る基本的資料を提供した。
〔2007〕
イスラーム陶器の時期別の種類分類と産地・年代に関する研究を、ペルシア湾岸・オマーン湾岸で発掘調査した遺跡出土品、ウズベキスタンとアフガニスタンの中央アジアの施釉陶器分類調査資料を核として行った。中央アジア・西アジアではイスラーム陶器が広範な地域のどの遺跡からも出土するため、遺跡の年代、居住者の性格を読み解く歴史資料として共通言語の役割を果たす。佐々木がすでに発掘調査した遺跡出土イスラーム陶器のうち、シャルジャ国立博物館、フジェイラ国立博物館に保管された資料を整理し研究資料として用い、バハレーンの国立博物館、アフガニスタンのバーミヤーン、ウズベキスタンのサマルカンドの施釉陶器を資料化した。博物館倉庫内資料から研究に使う陶器を抽出し、撮影、実測、記述した。新たな資料をコールファッカン遺跡発掘によって採集した。年代研究はイスラーム陶器の組み合わせ枠が出来ると年代提案ができるようになる。細部にわたる小さな問題点を取り上げた論文を作成し、編年表の基になる年代研究を行う。7世紀から19世紀に至るイスラーム陶器の変遷資料をコンピュータ内に並べ、これまで継続してきた科学分析や文様研究も日本国内で併せて実施した。こうした資料をもとに型式分類によるイスラーム陶器編年表を作成した。