●2005年度~2007年度
文部科学省(基盤研究(B) 海外学術 文化財科学)
第一次7月19日〜7月25日、第二次10月11日〜10月23日、第三次3月8日〜3月15日の3回に渡る現地調査を行った。第一次調査では、西翼ルネッタ全面を保存修復調査の対象とすることを決定し、今後4年間のガッラ・プラチディア廟モザイク壁画の保存修復調査の詳細な研究内容と計画書を作成した。又、ラヴェンナ建築文化財景観局アンナ・マリア・イアヌッチ局長と東京芸術大学壁画第二研究室はガッラ・プラチディア廟管理者ラヴェンナ大司教管区に対して修復調査に関する許可申請を行った。第二次調査では、東京芸術大学壁画第二研究室と国立ラヴェンナモザイク修復専門学校との間でガッラ・プラチディア廟モザイク壁画の保存修復調査に関する共同研究協定書に調印した。又、ガッラ・プラチディア廟内に足場を組み、西翼ルネッタの全体像と各部分の詳細な写真撮影を行った。この撮影によりモザイク全体の汚れ、複数箇所のテッセラの欠損、亀裂箇所等を確認し、記録した。国立ラヴェンナモザイク修復専門学校が過去に調査したデータの提供を受けると共に、ラヴェンナ市立図書館においてガッラ・プラチディア廟に関する過去の修復記録の調査と資料収集を行った。第三次調査では、修士課程及び博士後期課程学生計3名を現地に派遣した。ガッラ・プラチディア廟において模写図版作成の対象となる部分のモザイクの実測を行い、模写の原本となる写真のカラーコピーの色彩補正を行った。写真資料を原寸大に拡大し、紙に写し取る作業を開始した。この作業は、今後の修復調査において原本となる模写図版であり、平成19年度まで続ける予定である。前回に引き続き、調査報告書の資料となる写真の選定及び基礎資料、図版の編集を行った。ガッラ・プラチディア廟内部に温湿度計を設置し、年間の温湿度変化の記録を開始した。
研究室においては現地調査にて行ってきた写真資料の編集、収集した資料の翻訳などを継続的に行っている。
●2008年度~2010年度
【研究概要】
【2008年度】
第一次6月6日〜6月16日、第二次11月14日〜11月24日、第三次1月22日〜1月31日の3回の現地調査を行った。第一次調査では継続的に行っているテッセラ欠落部の点検、各図像における色彩分析調査を行った。ラヴェンナ国立博物館が収蔵する1900年代初頭にコッラド・リッチが行なった調査記録の資料を閲覧した。モザイク表面に付着している埃を採取し、物質の分析調査を行なった。第二次調査では放射温度計による内壁と外壁の温度調査を行った。テッセラ欠落個所と亀裂箇所のマクロ撮影を行なった。オリジナルと各修復箇所の図像(葉、葡萄、装飾等)の実測調査を行なった。テッセラの一部の採集を行ない、これらは現在、金箔の金の含有量、ズマルトの主材料であるガラスと各色素の科学組成調査を行なっているところである。第三次調査では廟内に足場を設置し、以下の初動的な修復作業を行なった。 (1)金箔ガラスの劣化状態及びテッセラとモルタルの状態を調査した上で、ルネッタ及びヴォールトの埃の除去作業を行った。この作業は、刷毛でコーニスや窓の朝顔口、モザイク表面に付着した埃や蜘蛛の巣を落とすもので、予備的な修復作業である。汚れを完全に除去するには更に洗浄剤による洗浄作業が必要である。また、作業工程において触診により落下させた金箔テッセラの皮膜ガラスは、最終的な洗浄作業終了後に元のテッセラ上に貼り直す。(2)ヴォールトにおいて1970年代の修復で使用したセメントモルタルの劣化が進行し、テッセラが落下する危険箇所があることを確認した。これらの調査結果に基づき今後の修復の具体的な作業を検討していく。今回の一連の作業中、古代修復に彩色した石灰石が含まれていることと19世紀後半に行なわれたキーベルの修復の彩色が完全には洗い落とされず、青色や黄色の顔料が付着する複数のテッセラが存在することを新たに確認した。研究室で作成していた鹿と木の葉文の模写図版の色彩補正作業を行ない完成させた。廟内部の温湿度計による環境調査は継続的に実施している。
【2009年度】
第一次5月29日~6月6日、第二次12月12日~12月29日の2回に渡り現地調査を行った。さらに8月1日から12月15日の間、イタリア人研究協力者によってモザイク壁画の修復作業が行われた。第一次調査では温湿度計のデータ収集を行った。大学研究室で制作していた模写図版をガッラ・プラチディア廟内部に持ち込み、足場上で色彩の補正作業を行った。今回の作業で5年間続けてきた6枚の全ての模写図版は完成した。また、モルタル及びテッセラの成分調査の為サンプルを採取、帰国後モルタルに付着している顔料成分と色彩の調査、およびテッセラの色彩との比較調査を行った。この分析作業により当時、アフレスコに使用した顔料成分やガラスの化学組成、ガラスの着色成分を解明した。8月1日から共同研究者クラウディア・テデスキが中心となり、修復士国家資格を持つイタリア人研究協力者4名により修復作業を開始した。修復項目は金箔ガラスの補修、ルネッタ及びヴォールトの洗浄作業、劣化モルタルへの樹脂の充填、落下の危険のあるテッセラの補修、等である。第二次調査では修復箇所の写真撮影、修復前と修復後のモザイク表現上の相違点を比較分析した。また、プーリア州エニャーツィアの海岸に残るローマ時代の石切り場跡を視察し、当時の石材の切り出し技術と流通経路について資料を収集した。エルコラーノではローマ時代の舗床モザイクを視察し、建物内部における光とモザイク表現の関連性について考察し、ガッラ・プラチディア廟内部の微光のモザイクに与える効果を検証した。エルコラーノに残る1世紀頃のモザイクと5世紀に作られたガッラ・プラチディア廟モザイクを比較研究することにより、ローマ時代のモザイク表現における光の効果と建造物との関係を総括的に研究した。
【2010年度】
最終年度となる本年度は、材料の科学分析調査の継続と模擬構造壁の制作を行なうとともに、現在まで行なつてきた分析、統計、実験結果を整理し、公表することを主たる活動として行った。現地調査として5月にローマ時代より採石が行なわれているカラーラにて、モザイクの材料として使われる大理石の伝統的採石技術の視察を行い、ラヴェンナモザイク修復専門学校において研究資料の整理と研究報告書作成のためイタリア人研究協力者と協議を行なった。
それから、これまでのガッラ・プラチディア廟モザイク壁画の研究成果を発表する場として「モザイクの真実-世界遺産ガッラ・プラチディア廟モザイクの保存と修復」と題した展覧会を2010年11月3日がち11月20日まで東京イタリア文化会館において開催した。展覧会では作成した調査資料(模写図版、ドローイング、写真資料、科学分析資料等)を展示するほか記録ビデオを上映した。
また、同展覧会開催期間中の8日と9日の2日間、同館においてシンポジウムを開き、調査研究結果の報告と研究の意義について意見交換をした。シンポジウムには、イタリアから研究協力者チエッティ・ムスコリーノ(ラヴェンナ国立博物館館長)、クラウディア・テデスキ(ラヴェンナモザイク修復専門学校教授)、アントネッラ・ラナルディ(ラヴェンナ建築文化財景観局局長)以上3名を招聘し、日本側は研究代表者工藤晴也の他、青柳正規(国立西洋美術館館長)、越宏一(東京芸術大学名誉教授)がパネラーとして参加した。
このようなかたちで我が国において一般にはなじみの薄い初期キリスト教美術の意義とすばらしさを広く社会に紹介する機会となった。
世界遺産ガッラ・プラチディア廟モザイク壁画の保存修復調査と修復技法の実証的研究
- 事業名称
- 世界遺産ガッラ・プラチディア廟モザイク壁画の保存修復調査と修復技法の実証的研究
- 実施地域・国
- イタリア
- 地域
- 欧州
- 事業実施機関
- 東京藝術大学美術学部
- 期間
- 2005年 ~ 2010年
- 協力の種類・事業区分
- 保存修復、 学術調査・研究
- 資金源
- 科研費
活動内容
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