文部科学省(基盤研究(A) 海外学術 宗教学→宗教学)
〔2001〕
ガリラヤ湖東岸エン・ゲヴ遺跡の発掘調査と検討(1),ガリラヤ湖東・北岸の諸遺跡調査(2),トルコ国イズミール地方のユダヤ教およびキリスト教遺跡踏査(3)を行った。
(1) では,既に,本遺跡のアクロポリス部分に二層にわたる鉄器時代の列柱式建造物の存在が確認されていたが,下層の列柱式建造物に連続すると思われるもう一棟の石列部分が出土し,加えて本建造物の年代決定に大きな意味をもつと思われる土器片が同建造物の床面から検出された。また,前回までの調査で確認されていた東側の直線的な二重城壁(ケースメート式城壁)は予想以上に北に延びていることが判明した。さらに,都市の北東部分には,壁の厚さ1mに及ぶ大規模な公共の複合建造物が城壁に接して存在していることも確かめられた。これらの発掘調査結果は成,古代イスラエル時代のこの都市が綿密に計画されて造営されていたことを明らかにしつつある。
ヘレニズム時代の遺構では,やはり前回までに知られていた建物の西の延長部分に石敷きの一続き二部屋が出土し,その南の部屋の床面に円形に並べられた礫が複数検出された。それはこの部屋がアンフォラを貯蔵する倉庫であったことを示している。この複数のアンフォラの貯蔵に加えて,東を向いた方位,石段を上った高い位置などは,ここが何らかの宗教的施設であった可能性を示唆するが,今回の調査では未だそれを確証できるには至らなかった。なお,本研究の枠内で,過去のエン・ゲヴ遺跡調査の記録写真類のデジタル化に着手した。
(2)本年度は,夏期,ガリラヤ湖東岸から 3kmの山上に築かれたヘレニズム都市ヒッポス(今年度よりハイファ大学とポーランド調査団が共同で発掘調査を開始した),ガリラヤ湖北岸の鉄器時代およびヘレニズム時代の遺跡ベトサイダ(アメリカ隊が発掘調査中)の三遺跡を視察し,エン・ゲヴ遺跡との比較研究のための資料を蒐集した。
(3)パレスティナ情勢の緊迫化に伴う危険性を考慮し,当初の研究計画からトルコ国小アジア地方のシナゴグおよび教会遺跡の調査に変更した。ガリラヤで誕生したユダヤ・キリスト教が北シリアを経て,まずはこの地で開化したからである。その結果,ガリラヤに始まるユダヤ・キリスト教がヘレニズム・ローマ文化の内部に融合するかたちでこの地に流入したことがより明確化した。
〔2002〕
(1)ヨルダン国における鉄器時代の諸遺跡の調査
本調査は二つの目的をもって行われた。ひとつは,2001年度に行ったガリラヤ湖東岸エン・ゲヴ遺跡の発掘調査結果を宗教文化史的に位置づけるために,ヨルダン国内の鉄器時代の諸遺跡を踏査し,各都市のヨルダン考古局より最新の発掘成果情報を入手することである。もうひとつは,ヨルダン国に残るデカポリスの諸都市の遺跡を視察し,各遺構の出土状況や最新の研究成果を確認することでヘレニズム時代からビザンティン時代にわたるガリラヤ湖周辺地域の宗教文化理解に役立てるためである。
調査期間:8月26日〜9月3日および12月26日〜1月3日
調査地域:ヨルダン北西部(トランスヨルダン)の鉄器時代のテルおよびデカポリス諸都市(ジェラシュ,アビラ,ウム=カイス,ペラ,アンマン,ベイト・ラス)
調査成果:ラモト・ギレアド,マハナイムなど鉄器時代の核となる遺跡の位置と発掘調査の現状を確認。デカポリス諸都市の発掘調査の現状と都市相互の位置関係を確認。
なお,本調査は,在イスラエル日本大使館による渡航自粛勧告により今年度実施不可能となった当初の研究計画(夏期休暇を利用したイスラエル国ガリラヤ湖東岸エン・ゲヴ遺跡の発掘調査)に代わって,研究課題の範囲内で計画変更したものである。当調査に関しては,ヨルダン大学文学部教授S・アッバディ氏の協力を得た。
(2)聖書考古学研究会の開催
2002年12月5日〜9日,イスラエル国テル・アヴィヴ大学M・コハヴィ教授を招聘し,12月6日に天理大学で,12月7日に立教大学において聖書考古学研究会を開催した。天理大学ではコハヴィ教授による聖書考古学研究の現状と課題と題する講義と討議を,立教大学では同教授および研究分担者名取四郎立教大学教授による発題をもとに討議を行い,ガリラヤ地域における宗教文化の理解を深めた。
(3)昨年度までのガリラヤ湖東岸エン・ゲヴ遺跡の発掘調査の報告に向けた資料の検討
エン・ゲヴ遺跡では,同一研究課題のもとに1998〜1999年度および2001年度文部省科学研究費補助金(研究代表月本昭男)によって実施した発掘調査結果を踏まえ,7月23日から8月17日まで今年度の発掘調査を実施したが,その際に出土した遺構および遺物の実測図をもとに検討を加え,本格的な研究報告書の準備作業を行った。なお,1999年度および2001年度の発掘調査の成果に関しては,年次報告をまとめ,2003年3月に研究代表者がイスラエル国考古・古物局に提出した。
(4)トルコ共和国およびイタリア共和国におけるユダヤ教およびキリスト教遺跡踏査
3月14日〜29日,研究分担者名取四郎が,イスラエル国ガリラヤ湖周辺の古代ヘレニズム・ローマ都市との比較研究を目的として,トルコ共和国およびイタリア共和国の古代都市踏査を実施した。地中海古代都市地誌上の諸問題、ならびに古代都市における教会堂およびシナゴーグの配置の問題を実地調査し,後期古代,初期中世,中世ピザンティン時代の都市史の写真資料および文献資料を収集した。
〔2003〕
(1)ガリラヤ湖東岸エン・ゲヴ遺跡の発掘調査
調査目的:今年度の調査の主な目的は次の3点であった。
(1)ケースメイト式城壁の東北角を確認し,鉄器時代の都市の規模を確認すること
(2)下層の列柱式建造物の概要を確認すること
(3)ヘレニズム時代の複合建造物の北端を確認すること
調査期間:7月27日〜8月23日
調査成果:発掘調査自体はテル・アヴィヴ大学からの協力もあり,概ね順調に実施された。目的の(1)に関しては,城壁自体がテルの北側の公道の下に続いているために,東北の角こそ検出できなかったが,東北の角に接し築かれたと推定される複数の部屋が検出し,城壁に関する限り,この都市が北イスラエルの離宮のおかれたテル・エズレエルとの類似性を示していることが判明した。なお,本年度の成果の一端は第11回「西アジア考古学発掘調査報告会」(2004年3月 6日〜7日,於国士舘大学)で研究協力者山内紀嗣により報告された。
(2)ヘレニズム〜ビザンティン時代の都市遺跡の調査研究
本年度は2 つの踏査を実施した。ひとつは研究分担者名取四郎他1名によるヨルダン・シリアの教会遺跡の調査研究(2003年8月4日〜23日),もう一つは研究分担者佐藤研他1名によるトルコ・ギリシアの初期キリスト教遺跡調査研究(2003年10月27日〜11月4日)である。
(3)聖書考古学研究会の開催
本年度は6月22日に名古屋大学においてエン・ゲヴ遺跡出土資料の検討を行い,12月20日に八王子市北野南部会館にてイスラエル鉄器時代の墓制の共同研究会を開催した。後者の成果の一端は「アナトリア考古学国際コロキアム」(2004年3月14-15日,於中近東文化センター)で研究協力者宮崎修二により発表された。
(4)デカポリス研究会の開催
ガリラヤ湖周辺からトランス・ヨルダン地域にはデカポリスと呼ばれるヘレニズム都市群が存在していた。これまでのヘレニズム都市の調査資料を踏まえながら,本年度は2003年7月12日、11月22日、2004年3月12日と3回の研究会を行い, デカポリス都市の宗教文化に関する知見を深めた。その成果の一端は名取四郎の論文に発表された。
(5)エン・ゲヴ遺跡の発掘調査の報告に向けた資料検討
エン・ゲヴ遺跡発掘調査の最終報告書の作成に向けて,随時,検討を重ねた。とくに第1次〜第3次発掘調査の成果に関しては,まずはPreliminary Reportとして国際的学術雑誌TEL AVIVに調査報告を発表すべく,準備を進めた。本報告は明年度中には刊行される予定である。
イスラエル国ガリラヤ湖周辺地域の宗教文化に関する総合研究 1
- 事業名称
- イスラエル国ガリラヤ湖周辺地域の宗教文化に関する総合研究 1
- 実施地域・国
- イスラエル
- 対象とする文化遺産の名称
- エン・ゲヴ遺跡
- 地域
- 中東
- 事業実施機関
- 立教大学
- 期間
- 2001年 ~ 2003年
- 協力の種類・事業区分
- 学術調査・研究
- 資金源
- 科研費