研究課題「クシャン王朝の歴史考古学的研究」(平成11-13年度)に対する研究成果は報告書の研究発表一覧に示すとおり、論文9編、箸書1篇、口頭発表6件である。しかしその中には研究準備段階に作成し、遅れて刊行されたものも含まれる。2002年2月になって出版された『New Discoveries from the excavations at Ranigat, Pakistan』(South Asian Archaeology 1997, Rome)もそのひとつであり、その中で私は長年従事したガンダーラ仏教美術の発掘とその成果を総括し、出土彫刻と貨幣、刻文の層位関係からガンダーラ仏教美術はクシャン王朝の宗教・芸術活動であったと主張した。今回、パキスタン、インドに短期間の調査旅行を行い、遺跡、博物館を再訪してクシャン王朝にかかわる新出土資料を収集し、上述の結論の有効性を確認することができた。またそのような観点からバーミアーン大仏とその天井壁画について検討を加え、論文『バーミアーン石窟と弥勒信仰」を作成した。その中でガンダーラ式唐草文様が55m大仏の天井壁画中に系統的に使用されていることを指摘した。現状では退色がはげしく、看過されてきたが、その様効からみて西暦400年をくだらない作品である(2001年3月爆破、消滅)。従来は大仏足下の石窟仏龕を装飾する塑造による渦巻式唐草文(グプタ朝後期)を年代判定の手がかりとしてきたが、それは後世修復時の作品である。したがって古式唐草文の検出は大仏とその天井壁画の制作年代を決定する新しい有力な手がかりといえる。
アフガニスタンでは長期にわたる内戦と治安悪化から、不法な歴史文化財の発掘が頻繁に行なわれ、多くのクシャン王朝考古学遺物、出土文字資料(貝葉、樺皮仏典写本、羊皮紙経済文書)が世界の市場に流出した。2000年になってそれら資料研究が公刊されはじめたので、クシャン王朝の研究はさらに多彩に進展するとおもわれる。
クシャン王朝の歴史考古学的研究
- 事業名称
- クシャン王朝の歴史考古学的研究
- 実施地域・国
- アフガニスタン
- 地域
- 中東
- 事業実施機関
- 富山大学
- 期間
- 1999年04月 ~ 2002年03月
- 協力の種類・事業区分
- 学術調査・研究
- 資金源
- 科研費