当研究は、カンボジアとチリの遺跡、遺物を対象に実施している。
カンボジア・ アンコール文化遺産保護に関する研究協力は1993年から開始し、これまでに3年を1フェイズとする3回9年間にわたる事業をおこなってきた。これまでに延べ32名の研究員交流をおこなうとともに、上智大学国際調査団と共同でバンテアイ=クデイ遺跡やタニ窯跡群の調査研究をおこなってきた。2002年からはアンコール・トム内にある西トップ寺院跡を対象とした新たな共同研究事業を発足させた。今回は事業期間を2005年度までの4年間とし、事業開始当初に定めた発掘調査、遺跡探査、広域遺跡整備などの諸研究を、現地のAPSARA(アンコール地区遺跡整備開発機構)と共同でおこなう予定である。
西トップ寺院は、バイヨンの西約500mほどに位置する小型の石造寺院遺跡である。同寺院からは9世紀の碑文が発見されているものの、現存するものは建築形式などより10世紀に建立されたものと考えられ、それ以後 13世紀から17世紀にかけて仏教寺院として再興されたと推定されている。この共同研究では西トップ寺院の変遷を明らかにするにとどまらず、アンコール王朝崩壊後の中世の仏教寺院としての姿を明らかにし、この地の中世史をよリー層、豊かなものにすることを目指している。また発掘現場を共同研究の場とすることによって、より実効性のある人材育成を進めることが可能になると考えている。
西トップ寺院での共同研究開始に当たり、2002年12月6日に現地においてAPSARA(アンコール地区遺跡整備開発機構)との覚書調印式をおこない、翌7日に現場で調査の鍬入れ式を執りおこなった。本年度はこれに加えて、これに先立つ 8月には、西 トップ寺院調査の第1回目調査として、平板による地形測量を実施した。2003年度には、遺跡に残る現存建物の詳細な図面を作成するとともに、小規模な発掘調査を実施し、地下遺構の状況を明らかし、2004・2005年度には、本格的な発掘調査と諸図面の完成を目指す予定である。
チリにおける異なる気象条件下における不動産文化財の保存に関する調査研究は、以下の通りである。
保存修復・整備の対象となっているイースター島テピト クラにある最大級のモアイ石像の劣化状況を調査し、保存修復・整備の指針を検討した。当初は同モアイ石像を起立させ、アフ (基壇)上に載せるという計画であったが、同モアイ石像がたどった履歴、技術的な問題などを検討した結果、倒れたままの状態で強化保存処置を施すという方針がたてられた。これらの強化保存処置法については、奈良 文化財研究所とチリ国立文化財保存修復センターが共同研究としておこなっている暴露試験の結果を基に策定される。また、現地にて、継続しておこなっている暴露試験の状況の確認、昨年度の試験片回収と分析の確認、気象データの 回収などを実施した。また、チリ共和国より2名の保存修復専門家を招聘し、分析技術のトレーニング、研究講演会をおこなった。次年度はこれまで暴露試験に供した試験片の回収・解析をおこなうとともに、さらに新たな強化材料で処理した試験片などの暴露訓験を継続する予定にしている。
異なる気象条件下における不動産文化財の発掘技術及び保存に関する調査研究(2002年度)
- 事業名称
- 異なる気象条件下における不動産文化財の発掘技術及び保存に関する調査研究
- 実施地域・国
- 複数国/地域横断
- 地域
- 複数地域・国などにまたがる協力
- 文化遺産の分類
- 考古遺跡
- 期間
- 2002年 ~ 2002年
- 協力の種類・事業区分
- 人材育成、 保存修復、 学術調査・研究
- 資金源
- 独立行政法人(JICA除く)