イラク・クルディスタン、シャフリゾール平原の先史遺跡調査

事業名称
イラク・クルディスタン、シャフリゾール平原の先史遺跡調査
実施地域・国
イラク
文化遺産の分類
考古遺跡
事業実施機関
金沢大学
期間
2019年 ~ 継続中
協力の種類・事業区分
学術調査・研究
資金源
その他(科研費、大学法人)

活動内容

ザグロス山麓先史考古学プロジェクト(The Zagros Piedmont Prehistoric Project)が目指すのは、現代世界の基層をもたらした二つの人類史上における「革命」、新石器化(農業革命)から都市化(都市革命)への移行プロセスの解明です。世界に先駆けてこれらの「革命」が起きたのは西アジアですが、実は発生した場所が少し異なります。都市化は銅石器時代(前5200~3000年頃)、ティグリス・ユーフラテスの両大河に潤されたメソポタミア低地を核として進みましたが、それに先立つ新石器化は周囲を取り巻く丘陵地帯、いわゆる「肥沃な三日月地帯」から始まりました。「三日月地帯」の各地で新石器化を遂げていた農耕牧畜民が、それまで荒野に過ぎなかったメソポタミア低地の開発に乗り出したのは、後期新石器時代(前7000/6600~5200年頃)にあたる前7千年紀後葉のことです。そして、やがて最古の文明社会が花開く都市化の舞台が整えられ始めました。新石器化と都市化の時代の狭間にあって、これは二つの「革命」を橋渡しする決定的な出来事といえます。こうした関心のもと、私たちはイラク・クルディスタン地域スレイマニヤ県東部、シャフリゾール平原にて考古学調査を実施しています。 この平原は「三日月地帯」の一角にあたるザグロス山麓にあり、山並みを縫って流れる河川に潤された沃野です。シルワン川とタンジェロ川の合流点には、1961年にダルバンディ・ハン・ダムが建設され、現在、平原の一部はダム湖に沈んでいます。合流後のディヤラ川は南西方向に流れ、やがてティグリス河へと達します。つまり、シャフリゾール平原は、ザグロスの山襞に沿って「三日月地帯」の各地と繋がり、ディヤラ川の河谷を下ればメソポタミア低地へと通じる、要衝の地といえます。メソポタミア低地の開発過程を定点的に追跡するうえでは、恰好のフィールドです。新石器化から都市化への移行が、この地を介したヒト・モノ・アイデアなどの往来と何らかの関係があったとしても、まったく不思議ではありません。ところが、シャフリゾール平原の考古学研究は、たび重なる戦禍の影響もあって、さほど進んでいないという現実があります。かつて、ダム建設に先立つ水没予想区域内の遺跡救済事業として、遺跡分布調査やいくつかの発掘調査が行なわれましたが、メソポタミア低地の開発が始まった時期にかんする考古学的記録は残されていません(cf. Hijjara 1997)。
ダム建設から半世紀近くが経過した2009年、シモネ・ミュール氏らの研究チームはイラク・クルディスタン地域政府スレーマニ文化財局とともに、遺跡分布および古環境を調査するシャフリゾール・サーヴェイ・プロジェクト(SSP)を開始しました(Altaweel et al. 2012)。このプロジェクトによって記録された80以上の遺跡のなかで、22の遺跡には後期新石器時代の居住が推定されています(Mühl and Nieuwenhuyse 2016; Nieuwenhuyse, Odaka and Mühl 2016)。 近年、このうちの2遺跡、テル・ベグム(Tell Begum)とテペ・マラーニ(Tepe Marani)で発掘調査が行なわれ、ともに後期新石器時代末(ハラフ後期、前5600~5200年頃)の文化層が検出されました(Nieuwenhuyse et al. 2016; Wengrow et al. 2016; Odaka et al. 2019)。
しかし、それ以前の年代、前7千年紀後葉から前6千年紀前葉と思しきヒトの活動の痕跡は確認されませんでした。メソポタミア低地の開発が始まる重要な時期であるにもかかわらず、SSPの調査でもこの年代と思しき資料はほとんどみつかっていません。シャフリゾール平原において、確実といえる考古学的証拠は皆無です。この数百年の間、人びとは忽然と姿を消してしまったのでしょうか? あるいは、生活様式を一変させ、分散しながら移動を繰り返したため、その痕跡がみつけづらくなっているのでしょうか? もしくは、私たちがこの年代にあたる考古資料を把握しておらず、遺跡を認識できていないだけなのでしょうか?

ザグロス山麓先史考古学プロジェクトは、まずこの謎を解き明かすべく、SSPに携わっていた小高敬寛と賛同する研究者たちが立ち上げました。新石器化と都市化の狭間にある時空間に焦点をあて、考古学的文化の動態を遺跡の発掘調査などから実証的に研究するプロジェクトです。ミュール氏をはじめとする関係諸氏の後押しを受けながら数年間にわたって準備を進め、2019年、正式な発足に至りました。

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