若手研究(B) 建築史・意匠
2004年度は研究計画に沿ってまず、平成16年8月下旬に英国への調査旅行へ行き、大英図書館、コートールド・美術研究所等で17世紀後半の英国東インド会社の建築活動に関する基礎的資料の収集を行った。特に本研究の主たる対象となる17世紀末の英国東インド会社のインドにおける活動、特に建築家サー・ジョン・ヴァンブラが滞在し、後にスケッチを残した、スラトの外国人墓地に関する既往研究等の資料を収集した。この際大英博物館で閲覧した17世紀末のスラトの地図から当時の港湾都市であったスラトの極めてコスモポリタンな状況や墓地と庭園が点在するという特徴的な都市の状況を伺い知ることができた。
またこの調査旅行の際に、本研究の中心的対象である建築家サー・ジョン・ヴァンブラの建築スケッチを閲覧するため、英国ブリストル市公文書簡へ行き、収蔵されているキングス・ウェストン・アルバムの閲覧、および必要な箇所の複写を行い、あわせてヴァンブラによって設計されたカントリー・ハウスの現地調査を行った。キングス・ウェストン・アルバムにはこれまで出版されたことのない貴重なスケッチが多数収蔵されており、今後の研究の基礎資料として極めて貴重な情報の収集ができた。
帰国後は収集した資料の整理を行い、ヴァンブラの建築スケッチから、彼の建築設計手法の分析を行った。平成17年度建築学会大会梗概としてまとめる予定である。
本年度はさらに3月に西インドの都市スラトの現地調査に行き、これまであまり注目されることのなかった17世紀末の西インドにおける墓地や庭園、さらに建築・都市の状況について調査を行う予定である。
2005年度
17世紀末に英国東インド会社の社員としてインドへ赴いた建築家サー・ジョン・ヴァンブラの建築作品における平面構成手法の分析を、英国に保存された図面を用いて行った。その結果、ヴァンブラの平面構成における幾つかの特徴が明らかとなった。1)平面における正方形の多用、2)立面での正方形プロポーションの使用、すなわち立方体という極めて純粋な幾何学への志向、3)平面構成が発展していく過程で廊下が重要な役割を果たしている。壁によるボリュームの分割と廊下による分節が設計過程で交互に見られ、機能的解決と幾何学的構成を両立させるための、言い換えるならばモニュメントとしての建築を設計するための有効な手段として廊下を発見的に使用していたことが分かった。
ヴァンブラはインドの建築に関する記述は一切残していないが、唯一スラトで見た英国人の霊園墓地のスケッチをRoyal Commission for Building Fifty New Churchesの委員会に提出したことがある。しかしスラトに現存する英国人墓地に関しては実際にどのような物であったのか、あまり多くのことが知られていない。そこで本研究ではインドのスラトに現存する、英国人墓地およびオランダ人墓地の現地調査を行い、ヴァンブラの設計手法に対する影響関係を探った。その結果、ヴァンブラの設計手法との興味深い類似点が明らかとなった。1)純粋幾何学の使用、2)立方体と半円ドームの組み合わせ、3)隅部に配置される櫓状のボリューム、4)霊園内のランダムな霊廟の配置などである。
以上から、英国における「風景概念」の生成期に先導的な役割を果たしたヴァンブラの建築作品に、インドにおける霊廟の影響と考えられる特徴が複数見られることが分かった。
英国の「風景概念」生成期における建築デザインの変容と非西欧圏文化の受容
- 事業名称
- 英国の「風景概念」生成期における建築デザインの変容と非西欧圏文化の受容
- 実施地域・国
- イギリス
- 地域
- 欧州
- 事業実施機関
- 首都大学東京都市環境学部
- 期間
- 2004年 ~ 2005年
- 協力の種類・事業区分
- 学術調査・研究
- 資金源
- 科研費