国立大学法人金沢大学との共同研究
【目的】
「バーミヤーン遺跡保存事業」の一環として実施されてきた考古学の試掘調査によって、これまでに陶磁器が大量に出土している。陶磁器は当時の生活や文化、また他地域との交流を知るために基礎となる資料であり、バーミヤーンの歴史を研究する上で重要な情報源となりうる。本研究は、バーミヤーン遺跡から出土した陶磁器を分類・整理し、資料化することで、その特質を明らかにすることを目的とする。
【成果】
2007年度:
バーミヤーン遺跡から出土した陶磁器を素地、成形、整形技術及び装飾技術によって分類整理した。製作年代を知る基準は一括出土品、同じ層位内出土品、上下の層位出土品との比較であるが、傾斜地及び扇状地の流れ込みによる層位が主となる遺跡が多いことを踏まえ、製作技術と整形・装飾技術を比較することで年代を考え、層位出土品の重量比率比較を参考資料とすることにした。産地を知る基準は素地の質と色を主とし、併せて成形・整形・装飾技術及び文様を他産地と比較する資料とした。
主な出土陶器と土器が分類整理されたことで、バーミヤーンの歴史を考察しうる情報を得ることができた。まず、仏教時代以後(9世紀以降)、イスラーム時代においてもバーミヤーンが繁栄を続けていたことが明らかとなった。しかしながら、13世紀中頃以降の時代の陶器はきわめて少ないとの結果も得られた。このことから、「チンギス・ハーンの軍隊によって住民が虐殺された」というジュワイニーの『世界征服者の歴史』の記述が裏付けられる可能性が高いことが判明した。
2008年度:
バーミヤーン、テルメズ、サマルカンドの施釉陶器は、大きくみれば類似した性質の粘土を使用している。細かくみると、それぞれの地域の粘土を使って現地生産されたものが主であることも知られる。それぞれの地域の素地は違うともいえる。また一部の製品は、他産地から運ばれたものであることも確認された。
バーミヤーンの日干レンガを作る材料の黄色粘土とバーミヤーン産と推定した施釉陶器の分析値は似ている。同じ地域の粘土を用いて現地で施釉陶器を作ったことが推定できる。
テルメズの施釉陶器は、素地成分から2種類に分類できる。この分類は、白濁釉陶器及び白濁釉緑彩陶器のグループ、多彩釉刻線文陶器のグループと対応している。多彩釉刻線文陶器はサマルカンドに近い素地であり、サマルカンド産の可能性がある。
バーミヤーン産素地とサマルカンド産素地及びテルメズ産素地は主成分が異なり、バーミヤーンで作られた施釉陶器は現地の粘土を使うことが明らかである。
このような分析結果に基づき、シルクロードを通して施釉陶器が運ばれることは希であることが実証された。
アフガニスタン・バーミヤーン遺跡出土陶器の研究
- 事業名称
- アフガニスタン・バーミヤーン遺跡出土陶器の研究
- 実施地域・国
- アフガニスタン
- 対象とする文化遺産の名称
- バーミヤーン遺跡
- 地域
- 中東
- 文化遺産の分類
- 考古遺物・美術品・歴史資料
- 事業実施機関
- 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
- 期間
- 2007年 ~ 2008年
- 協力の種類・事業区分
- 学術調査・研究
- 資金源
- その他