アメンヘテプ3世王墓壁画の調査・修復

事業名称
アメンヘテプ3世王墓壁画の調査・修復
国名
エジプト・アラブ共和国
期間
2001年~2004年
対象名
エジプト・ルクソール地方
文化遺産の分類
記念物、 遺跡
実施組織
早稲田大学エジプト学研究所
出資元
外務省(ユネスコ文化遺産保存日本信託基金)
事業区分
人材育成、 保存修復

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背景

Background

王家の谷、アメンヘテプ3世王墓

アメンヘテプ3世は、古代エジプト新王国時代第18王朝(紀元前1400年頃)に38年間在位した王である。その間、造営された王墓は、この時期の王の墓所として著名なルクソールの「王家の谷」の西谷に位置し(写真7)、1979年にユネスコの世界遺産リストに登録された「古代テーベとネクロポリス」の中でもとりわけ重要な遺跡の一つである。
 アメンヘテプ3世の時代は、古代エジプト文化の最盛期にあたる新王国時代の中でも最も繁栄した時代であり、この墓の造営には、その当時の最高水準技術が駆使されている。特にアメンヘテプ3世王墓の壁画は、第18王朝の王墓の中でも最も緻密で入念に描かれた壁画であり、その美術的な価値は計り知れない。

壁画保存修復プロジェクトの立案

1799年ナポレオン遠征隊によって発見されて以来、人為的破壊、自然崩落や亀裂が進行し、壁画は崩落の危機にみまわれてきた。壁画の鮮やかな彩色も、コウモリの排泄物や砂塵などの汚れにより深刻な被害をうけていた(写真1)。そのため、この王墓の保存修復の重要性・緊急性は、現地当局や海外の専門家により長年に渡り指摘されてきた。
 こうした点を踏まえ、早稲田大学エジプト学研究所は、本格的な保存修復のためのプロジェクトを立案した。ユネスコ(国連教育科学文化機関)、エジプト考古最高評議会の協力を得て、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金の助成を受け、国際共同プロジェクトとして総額694,000米ドルの予算、2カ年の計画で保存修復作業を実施することになった。

  • 王家の谷・西谷、アメンヘテプ3世王墓遠景

  • 壁画修復作業

活動内容

Activities

専門家による科学的調査

 エジプト学、建築学、考古学、保存科学、美術史学、土木工学、微生物学、材料科学など多岐に渡る科学的調査にもとづき修復作業を行うために、各分野の専門家と連携して調査が行われた。特に、母岩や柱の亀裂に関して、地下空間の短期および長期安定性の科学的調査が実施されたが、実際の施工には至っておらず危険な状態が続いている。亀裂のモニタリングでは、変動が観測されたため、専門家から長期安定性を考慮した早急な対応の必要性が指摘された。

壁画修復チームの編成

 実際の壁画修復には、イタリア人、エジプト人、日本人の壁画保存修復師からなる国際的チームが作業にあたり(写真2)、壁画の剥落止め処置およびクリーニング作業を実施し、大きな成果を挙げた。さらに、エジプト人、日本人の修復師への技術移転やルクソール地域で活動する修復専門家との意見交換も実施された。これまで墓内のJ室(玄室)、I室(前室)、E室の壁画の保存修復作業をほぼ完了した。これは全壁画の約80%にあたる。修復後の壁画は、鮮やかな色彩を取り戻しただけでなく、精巧に装飾された壁画の細部の観察を可能とし、その価値を再認識させる成果が得られた。

  • 柱の亀裂

  • J室-Jd室間の壁の亀裂

結果

Results

美しく甦った壁画

 2004年3月まで行われたアメンヘテプ3世王墓壁画の修復作業により、全壁面の約80%の修復作業が終了した。これにより、壁画本来の美しく、鮮やかな色彩が甦り、考古学的、美術史学的な壁画の細部の観察が可能となった(写真3)。また、各分野の専門家による科学的調査が行われたことで、保存修復に関するデータが蓄積された。こうしたデータは、古代エジプトにおける壁画の彩色技術や壁画の修復方法に関する研究に有益な示唆をもたらすものといえる。

今後の課題

 これまでアメンヘテプ3世王墓の保存修復プロジェクトは、内外から高い評価を受けているものの、まだいくつかの課題が残されている。今後の課題としては、J室-Jd室間の壁の亀裂(写真4)、J室第3柱の亀裂の補強作業(写真5)、赤色花崗岩製の王の石棺の修復作業、Je室および天井の壁画(写真6)の修復作業、修復後の墓内環境の整備・モニタリングなどが挙げられる。

  • 修復作業前の壁画(E室南壁)

  • 修復作業後の壁画(E室南壁)

地図

Map

Projects

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