王家の谷、アメンヘテプ3世王墓
アメンヘテプ3世は、古代エジプト新王国時代第18王朝(紀元前1400年頃)に38年間在位した王である。その間、造営された王墓は、この時期の王の墓所として著名なルクソールの「王家の谷」の西谷に位置し(写真7)、1979年にユネスコの世界遺産リストに登録された「古代テーベとネクロポリス」の中でもとりわけ重要な遺跡の一つである。
アメンヘテプ3世の時代は、古代エジプト文化の最盛期にあたる新王国時代の中でも最も繁栄した時代であり、この墓の造営には、その当時の最高水準技術が駆使されている。特にアメンヘテプ3世王墓の壁画は、第18王朝の王墓の中でも最も緻密で入念に描かれた壁画であり、その美術的な価値は計り知れない。
壁画保存修復プロジェクトの立案
1799年ナポレオン遠征隊によって発見されて以来、人為的破壊、自然崩落や亀裂が進行し、壁画は崩落の危機にみまわれてきた。壁画の鮮やかな彩色も、コウモリの排泄物や砂塵などの汚れにより深刻な被害をうけていた(写真1)。そのため、この王墓の保存修復の重要性・緊急性は、現地当局や海外の専門家により長年に渡り指摘されてきた。
こうした点を踏まえ、早稲田大学エジプト学研究所は、本格的な保存修復のためのプロジェクトを立案した。ユネスコ(国連教育科学文化機関)、エジプト考古最高評議会の協力を得て、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金の助成を受け、国際共同プロジェクトとして総額694,000米ドルの予算、2カ年の計画で保存修復作業を実施することになった。