多様な文化遺産と自然災害
フィリピンは大小7,100ほどの島からなる東南アジアの島嶼国で、マレー系人を主体とした多民族国家である。その多様性は文化遺産にも表れており、先史時代の考古遺跡、文化的景観としての棚田、植民地時代の町並みや教会群など、多くの文化遺産を有する。一方で、現在の多民族国家の成立前に植民地支配や戦争の被害を受けており、独立後の国家の発展に際しては、日本を含む多数の国際協力を得てきた。
日本が行ってきたフィリピンの文化遺産への協力については、政府による文化無償援助協力、あるいは、専門家による建築学、文化人類学、考古学などの分野ごとでの研究が中心であった。しかしながら、文化遺産の状況が明らかになるような、分野横断的な調査は行われてこなかった。実際日本が積極的に文化遺産の支援を行ってきた近隣の東南アジア諸国と比較した場合、フィリピンの文化遺産に対しての支援は限られ、またフィリピンの文化遺産保護に関する情報も乏しい。さらに、現地の治安によっては、文化遺産の状況の把握の度合いに差がでている。一例を挙げると、過去ではルソン島北部、現状ではミンダナオ島の文化遺産保護状況について情報が限られている。
また、フィリピンは日本と同様に自然災害が多発する地域である。2013年には、地震によりセブ島・ボホール島が、台風「ハイヤン」によりビサヤ諸島が甚大な被害を受けた。同地域の文化遺産も多数の被害を受けており、文化遺産に対する危機管理が必要となっている。