サンボー・プレイ・クック遺跡群保全事業

事業名称
サンボー・プレイ・クック遺跡群保全事業
国名
カンボジア王国
期間
2001年~継続中
対象名
サンボー・プレイ・クック遺跡群
文化遺産の分類
遺跡
実施組織
カンボジア政府文化芸術省、早稲田大学建築史研究室
出資元
早稲田大学
事業区分
基礎研究、 人材育成、 保存修復

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背景

Background

遺跡群の概要と事業の必要性

「アンコール文明萌芽期の都市遺跡」
サンボー・プレイ・クック遺跡群は、チェンラ(真臘国)の王都となる古代都市址である。7世紀前半に最盛期を迎えたこの遺跡群には、ヒンドゥー教の伽藍が集中する寺院地区と、濠に三方を囲まれた2km四方の方形の都市地区を中心として、多数の遺構が残されている。9世紀にはじまるアンコール王朝の前身勢力が築いたこの古代都市には、豊かな装飾彫刻を施した煉瓦造の寺院が多数建立され、また水管理の土木施設が組み込まれた計画的な都市が築かれた。インドからの宗教芸術の影響とカンボジア独自の信仰や造形性とが出会い、後のアンコール時代の建築や彫像芸術のあり方を方向付けた歴史的に重要な都市・建築・考古学的痕跡である。

「倒壊の危機に瀕した遺跡群」
2017年には遺跡群の一部が世界遺産一覧表に記載され、カンボジア政府サンボー・プレイ・クック国立機構による管理が開始されたが、それ以前は十分な保存・管理体制が整っておらず、多数の遺構は厳しい熱帯気候のもとで倒木や植物の侵食により倒壊の危機に瀕していた。

  • プラサート・タオ寺院主祠堂の獅子像

  • プラサート・イエイ・ポアン寺院の東門・拝殿・主祠堂

  • プラサート・サンボー寺院の煉瓦造祠堂

活動内容

Activities

遺跡群の保存と研究の諸活動

「緊急対策から包括的な研究へ」
カンボジア政府文化芸術省と早稲田大学建築史研究室は、2001年にサンボー・プレイ・クック保全事業を立ち上げ、保存活動を開始した。遺跡群内の煉瓦造遺構の多くは差し迫った危機に瀕していたことから、仮設的な構造補強の設置や倒壊危険樹木の伐採等を進めた。また地域住民より構成されたメンテナンスチームによって継続的に草刈りや枝払いの管理を実施してきた。
また、広域踏査や遺構の分布測量によって遺跡群の全域地図を作成し、発見された全遺構と遺物の目録、主要な遺構の図面を集成し、遺跡群の全体像の把握に取り組んだ。現在、研究活動は考古学的発掘調査、煉瓦や石材の材料分析、地形測量と分析による水利構造の分析等、より発展的な段階へと前進している。これらの研究成果は、世界遺産の申請にあたっても重要な役割を果たした。

「修復から整備事業へ」
各寺院の祠堂内には精緻な彫刻が施された石製台座が安置されていたが、これらはいずれも人為的に破壊され、祠堂内外や盗掘坑内に放置された状況であった。保全事業では、2003年より2007年にかけてこれらの台座の修復と再設置事業を実施した。また、煉瓦遺構においては、詳細な倒壊危険個所の把握や破損原因の分析、包括的なリスクマップの作成をした上で、2009年より修復工事を開始した。2017年には遺跡群内でも中心的な寺院の一つであるプラサート・サンボーの主祠堂の修復工事を完了した。
また、世界遺産登録により遺跡群への関心が高まる中、チケットセンターや管理事務所等の来訪者管理の施設設置、サイト管理等の整備へと事業の枠組みは広がっている。
これらの研究・修復・整備活動は、いずれも人材育成プログラムと連携しており、これまでに多数の長期・短期の研修事業を実施してきた。こうした各種プログラムによって、多くの専門家・修復技能員が育成され、現在では遺跡の保存管理の中心的な人材となって活躍している。

  • 煉瓦遺構上部での定期的な草刈り

  • 祠堂内の盗掘坑の調査による石製台座片の出土

  • 煉瓦造祠堂の修復工事(プラサート・サンボー主祠堂)

結果

Results

今後の展開

「保護にむけたさらなる課題」
世界遺産への登録以降、遺跡群ではカンボジア政府によって継続的な管理と修復工事が実施されるようになった。しかしながら、修復を必要とする遺構は多数あり、また技術的により難易度の高い修復工事を必要とする遺構も少なくない。そのため、修復技術の開発、さらなる人材の育成、資機材の提供等にかかる支援を継続している。
また、研究の進展に伴い、関連する遺構の分布は広域に及び、地下には広い範囲で遺構・遺物が多数埋蔵していることが明らかになっている。遺跡群内には複数の集落が位置しており、基礎を伴う建設工事や耕作地の拡張等による遺跡破壊が徐々に進展しつつある。遺跡群の保護活動への地域住民の参画機会を拡大し、保全の仕組みづくりと住民意識の向上が不可欠となっている。

「世界遺産の拡張と包括的なマスタープランの策定へ」
2017年の世界遺産登録は、遺跡群の中でも研究が進展し、地上遺構が良好に残された寺院地区のみに限定されている。この地区の周辺にも重要な遺構が多数分布しているが、地域住民の社会活動によってそれらの保存は危うい状況にある。学術的な研究成果を積み重ねることで世界遺産の拡張を実現することで、遺構の保護にとってより有効な行政手段の実現が期待できる。拡張申請にむけて研究・修復・整備の包括的なマスタープランを策定し、長期的な活動を展開していくことが求められる。

  • 遺跡群管理と修復工事の作業員一同

地図

Map

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