都市遺産と都市開発
<問題点>
世界有数の歴史的価値をもつヒストリック・カイロ(旧市街)は1979年に世界遺産に登録された。10世紀末に矩形都市アル・カーヒラ(カイロ)が営まれ、サラディンが城塞を建設し、その後に数多くの建造物が築かれ、繁栄を享受した。現在もそれらの歴史建築が残るだけでなく、複雑な街路網と稠密な市街地状況には19世紀初頭の都市組成が保たれる。
しかしながら、アラブ革命以後の混乱に加え、昨今のシシ政権による強制的インフォーマル街区の一掃と再開発に際し、緊急度の高い危機的な状況を呈している。政府主導の老朽化住宅の一斉撤去と従来の町割を無視した都市計画の施行は目に余るものがあり、世界遺産指定街区内といえどもその危機に晒されている。
加えて、歴史的街区における歴史的建造物は、観光考古省により登録・修復されているものの、柵で囲み施錠し、利用していないため、痛みが激しくゴミ箱のような状況を呈している。歴史的価値を持ちながら登録されていない建物も多い。
活動の経緯と内容
著者は2016年より都市遺産の良好な保全のためには、そこで暮らす住民の遺産に対する意識が重要であるという観点から、住民意識の啓蒙活動を行なってきた。その一環として、本事業においては
・スーク・シラーハ通りに注目し、そこに残る歴史的建造物の利用法を住民とともに考え、
・国立景観機構と協力して、住民と行政を繋ぐファシリテーターの重要性を訴え、
・エジプト人建築家によって、未来のスーク・シラーハ像を提案し、それを行政、住民とともに考える
という一連の事業を計画した。
なお、それと並行してスーク・シラーハ通りの現況を捉えるための悉皆調査を行い、日本人専門家とエジプト人建築家が参加して、情報を共有した。