2021年度の活動ー国際ワークショップは、コロナ感染防止対策の観点からー
2021年度は、2022年1月8日(土)、9日(日)、計2日間にわたり、上智大学アジア人材養成研究センターが主催してオンラインでワークショップを開催した。当日は、アセアン各国から、文化遺産教育の専門家(文化芸術省局長や博物館館長等)がオンラインで出席し、自国における文化遺産教育の現状を報告、そして意見交換を行った。
初日は、冒頭に上智学院理事長の佐久間勤先生による開会挨拶があり、カンボジア現地よりヘン・ソファダイ教授(プノンペン王立芸術大学学長)、シリル・ヴェリヤト名誉教授(上智大学アジア・アフリカ研究所)による基調講演等が行われた。午後からは、カンボジア、インドネシア、マレーシア文化遺産教育専門家によるカントリー・レポート発表、ディスカッションが行われた。
2日目は、日本より栗原祐司氏(京都国立博物館副館長)による特別講演が行われ、その後、ミャンマー、タイ、ベトナム文化遺産教育関係者によるカントリー・レポート発表およびディスカッションが行われた。計2日間にわたる本ワークショップでは、出席したアセアン各国の文化遺産教育専門家から、自国の文化遺産教育の現状および課題など活発な議論が展開された。
コーディネーターは、本学の丸井雅子教授、アジア人材養成研究センターの二ム・ソティーヴン研究員、コメンテーターは、ミャンマー現地よりウー・ニュンハン教授(ミャンマー宗教文化省考古シニアアドバイザー)、田代亜紀子准教授(北海道大学)に担当いただいた。
文化遺産教育の原点を求めて
国際ワークショップでは、以下の点が確認された。
①文化遺産および民族の文化問題には、時空を超えた歴史時代の社会の様々な情報が含まれている。「文化遺産教育」を通じて、それらの過去と現在の諸情報を引出し、研究発表や再調査により新たにいろいろの分野の人たちのメッセージを解読し、まとめていく作業である。
②文化遺産を民族の誇り、アイデンティティそのものとして現代社会の中に位置づけていく。
③現代社会で民族の誇りを喚起する活動につなげ、定着させていく。
④文化遺産とは、その国の人たちが創り出した世界で類を見ない唯一の国宝級遺産である。
⑤世代から世代へと時空を超えて、承継されていくべき遺産はたくさんある。それは家族のルーツ探しであったり、地域に根差した仏教儀礼であったり、お国自慢の物語であったりする。
過去を振り返り未来を創る:
ここでは国際ワークショップ「アセアン10ヵ国の文化遺産教育に資する国際連携の構築」に登壇した坪井善明氏 (早稲田大学名誉教授)の発表原稿を一部紹介したい。
・アセアン(ASEAN)の成立史
アセアン(東南アジア諸国連合:ASEAN: Association of South-East Asian Nations)は1967年に、タイ・インドネシア・シンガポール・マレーシア・フィリピンの5か国によって結成されました。地域連合としてはアジアでは初めての試みでした。東側の社会主義諸国に対抗する西側の自由主義諸国の同盟という政治的意味が重きを置いていました。1995年にベトナムが参加したことにより、イデオロギーを超えて地域共同体の色合いを強めました。1997年にミャンマーとラオスが加盟し、1999年にはカンボジアが参加して、これで東南アジア10か国全部が加盟した地域共同体「ASEAN 10」として完成しました。
・東南アジア50年を5時代に分類
30年以上の年月が経過して、世界規模の経済発展が急速に拡大してきました。東南アジア諸国は経済的に言えば小国の立場だったので、人材は乏しくかつ市場は狭く、自国だけでは世界的な発展に追いつかないという現実に直面しました。そのためにも近隣の諸国が一致団結してより大きなパワーを身に着ける必要を感じたのです。
この東南アジアを西欧列強に植民地化された17世紀以来の350年間のスパンで時系列的に眺めてみると、5つの時代に分類することができます。「停滞する時代」・「抵抗する時代」・「独立する時代」・「繁栄する時代」・「自己主張する時代」です。世界中の多くの人々が、アセアンはグローバルな強力な組織として認知しています。言葉を代えていえば、アセアンは外交上の対話や同盟のパートナーとして大国のアメリカ・ロシア・中国そしてEUと対等な立場で話し合える地域共同体として認められてきたのです。
・自然と共生する
このような文化遺産を研究すると、西欧列強の影響を全く受けていない当時の建設技術の水準の高さを知ることができます。それと同時に、当時の人々の暮らしぶりも分かります。東南アジアの遺跡に共通するものは、「自然と共生する」というか「与えられた環境に人間が如何に順応して生活するか」という哲学というか価値観が存在していました。
私も東南アジアにある色々な世界遺産並びに世界遺産級の遺跡を見てきましたが、建設当時の時代を考えると、欧米を含めて世界のトップクラスの美意識とそれを表現する独自の技術を自前で習得していたことが理解できました。そして、「自然と人間が一緒に暮らす」というメッセージに感銘を受けました。
・文化遺産教育に至る道は多様
現在では、その欧米流の「発展」は地球環境を破壊することになります。2015年9月、国連は「SDG‘s」(Sustainable Development Goals:持続可能な発開発目標)を定め、2016年から2030年までの15年間で達成することを目標として17の項目を目標として国連加盟国193ヵ国が努力をすることを宣言したものです。
東南アジアの地域で、西欧列強が来る前の王朝・王国時代の生き方・暮らし方を現代に生かすことが求められているということです。「普遍的なるもの」を西欧列強に独り占めにさせるのではなく、「普遍に至る道は多様であって良い」というメッセージをアセアンから発信していくことが求められています。アセアンに沢山ある文化遺産をより詳しく科学的に研究して、その成果を広くアセアンの人々が共有すること。それを工夫して現代に生かすことを実現すること。これこそが、アセアンの「自己主張」の内容であり、「過去を振り返り、未来に生かす」方法だと確信しています。
「地球を救う」ために、アセアン諸国に在る文化遺産を研究して、将来に生かすことを一緒に追求していきたいと願っています。(オンライン発表原稿より一部を抜粋)
民族のルーツ探しから始まる文化遺産教育とは
この「文化遺産教育」は、まとめると、「自分とは誰か?」、「自分のルーツ探し」であり、「自分の拠って立つ文化の原点とは何か」である。複数形で考えると、自分たちの民族はどうしてこの国にいるのか。どのように国を造ったかにまで行き着く。民族の独立、民族のアイデンティティを再認識することから、国旗も登場する。
本ワークショップは、本年2022年を最終年度とするが、アセアン10ヵ国と日本に共通する「文化遺産教育マニュアル」を今後どのようにまとめるか、その完成に向けた活動は、最終年度にはこの「文化遺産教育マニュアル」をまとめていく。もし、予算が可能であれば、『マニュアル』原本をアセアン各国の地域言語(ベトナム語、カンボジア語、タイ語、ラオ語、マレー語、タガログ語、ブルネイ方言、インドネシア語、中国語、広東語、汕頭語)に翻訳することを検討する。
2022年度の活動ーカンボジアでのワークショップの開催ー
最終年(2022年)の開催プログラム予定は以下である。
会場: 上智大学アジア人材養成研究センター(カンボジア王国、シェムリアップ市内)
期間:2022年11月13日(日)~20日 (日)(8日間)
予定:
1日目: All participants Arrival at Phnom Penh City, Cambodia
2日目: Opening Ceremony at the Ministry of Culture and Fine Arts, Cambodia. Keynote Speech by H.E. Madame Minster of Ministry of Culture and Fine Arts, Cambodia, Visit National Museum of Phnom Penh, Visit Royal University of Phnom Penh, Special Remarks by H.E. Minister of Education, Youth and Sport
3日目: Transfer from Phnom Penh to Siem Reap City by Bus, Stopping by World Heritage Sites of Preah Khan of Kompong Svay
4日目: Visit the Office of APSARA Authority, Special Lecture and Case Studies of Cultural Heritage Education Program by Specialists from Cambodia, Presentation of Country Reports from Participants
5日目: Visit Angkor Wat temple, Presentation of Country Reports from Participants, Discussion.
6日目:Special Lectures, Visit Banteay Kdei temple and Angkor Conservation Office, Visit Preah Norodom Sihanouk-Angkor Museum
7日目: Visit Angkor Tom temple and Ta Prohm Temple, Special Lecture, Discussion, Closing Ceremony
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上智大学 アジア人材養成研究センター(1996年建設):現地カンボジア・シェムリアップ市内に土地を購入し、上智大学アジア人材養成研究センターの教育・研究拠点を建設(1996年)