農耕牧畜経済の拡散を北方に追う
調査の目的
西アジアで1万年ほど前に生まれた世界最古の農耕牧畜経済は、どのようにして周辺地域に拡散したのだろうか。西のヨーロッパや東のイラン、パキスタン方面への拡散に比べ、解明が遅れているのが北方への拡散である。アナトリア、コーカサス山脈といった高山地帯を初期農耕牧畜社会がどう乗り越えたのか、また在地狩猟採集民と接した際、どう対応したのか。新石器経済の拡散研究は考古学、人類学的にきわめて興味深い課題を提起する。これを調べるために、2008年からアゼルバイジャン共和国において野外調査を開始した。
アゼルバイジャンの考古学・文化財保護事情
アゼルバイジャン共和国は1991年に独立宣言した後、旧ソビエトにおける高等教育の機会を一気に減じた。加えて隣国との紛争が続いたため国内における高等教育にも中断が生じた。こうした政情不安が、上述した新石器時代調査をふくむ考古学研究、さらには、文化財を扱う専門家育成に深刻な停滞を招いている。今般のプロジェクトは純粋な学術目的で開始したものであるが、政情が安定した今、現地当局から、文化財事業の発展、専門家育成のための協力を求められたため、喜んで応じることにした。