フィジーにおける現地ワークショップの開催と、第12回太平洋芸術祭における「カヌーサミット」の開催
本事業では主要な事業として2つのワークショップを開催した。ひとつめは2015年12月にフィジーにおいて開催した現地ワークショップ、ふたつめは2016年5月の第12回太平洋芸術祭(グアム)において開催した第一回「カヌーサミット」である。
フィジーにおける現地ワークショップは、本事業のカウンターパートである南太平洋大学(University of the South Pacific)と共同で実施した。南太平洋大学は大洋州島しょ国によって多国籍に運営される国際大学であり、メインキャンパスがフィジーに所在する他、各地にキャンパスが点在している。
現地ワークショップを開催したのはフィジーの首都スバのあるビチレブ島から東に60 km余りの距離にあるガウ島(面積136.1 km2、人口2,600人)である。島の主要な経済は農業と漁業で、電気やガス、水道などのインフラは未発達であるが、伝統的な生活文化が良く残された場所である。ここでは南太平洋大学が国際協力機構(JICA)および三重大学の協力を得て「フィジー共和国ガウ島統合的開発支援事業:南太平洋しあわせ島づくり協力支援」事業を実施し、伝統的な資源利用を活用した持続可能な開発の実現を目指して活動を続けている。
2015年12月8日から11日にかけて行われた現地ワークショップは、現地住民との間で聞き取り調査と意見交換を行う形で進められた。ガウ島においても、気候変動の影響(海水面の上昇、サイクロンの規模・頻度の増大)と考えられる海岸浸食が深刻な問題であるが、地域住民によって海岸部でのマングローブの植林が進められ、海岸浸食を食い止めようとする取り組みがなされていた。また近代以降に放棄されていた内陸部の農耕地をふたたび開拓し、伝統的な主要作物であるタロイモの栽培を行うという地域住民の取り組みを見ることができた。
現地ワークショップを通じて、気候変動の影響という現代的な変化に対して伝統的知識を活用することによって適応するという、地域住民の積極的かつ主体的な活動を見ることができた。気候変動というグローバルな問題に対しては、近代社会(先進国)から伝統社会(発展途上国)への一方向的な「啓蒙」や「教育」だけではなく、むしろ近代社会の方が伝統社会から学ぶことも多いということに、改めて気付かされたワークショップでもあった。
第12回太平洋芸術祭(グアム)における第一回「カヌーサミット」は、大洋州の各地域に共有された無形文化遺産であるカヌー文化(航海術、造船技術を含む)の保存と振興を国際的に推進することを目的に2016年5月26日に開催された。
このワークショップは、ユネスコ大洋州事務所と太平洋芸術祭事務局の協力の元、東京文化財研究所・南山大学人類学研究所・グアム伝統芸術委員会(Traditional Arts Committee, Guam)・グアム伝統航海協会(Tatasi Subcommittee, Guam)の共催で開催された。メラネシア・ポリネシア・ミクロネシアの各地域においてカヌー文化の保存と振興に携わる実践者や伝統的航海師、専門家ら100名余りが一堂に会し、カヌー文化の復興(カヌー・ルネサンス)に関する様々な活動の報告や議論が行われた。
最後には、カヌー文化をユネスコの無形文化遺産に提案することを目指すとする参加者一同の合意が示された。参加者からは、カヌー文化の関係者が一堂に会するのはこのワークショップが初めてのことであり、歴史的なイベントであったとの感想を聞くことができた。
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フィジー・ガウ島の現地ワークショップにおける地域住民への聞き取り調査
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第12回太平洋芸術祭における「カヌーサミット」の様子