広大なる草原の国カザフスタン
カザフスタンにおける近代的な考古学調査はソ連時代の1920年代に始まり、現在まで100年近くもの長い歴史をもつ。ユーラシア中央部という極めて重要な地勢上の位置を占めるがゆえに、先史時代から歴史時代に至るまで、大陸規模での文化交流を示す世界的に有名な遺跡も数多い。カザフスタンでは、国立の博物館、大学、研究所により発掘調査も盛んに行われており、現在約200人もの考古学の専門家を擁する中央アジア最大の考古学センターである。日本による国際協力事業としては、東京文化財研究所による平成23~24年度のシルクロード世界遺産登録推進事業の対象国の一つとなり、奈良文化財研究所の協力によって遺跡地下レーダー探査の技術移転が行われ、良好な成果をおさめている。
一方、長年にわたる活発な考古学調査で得られた膨大な数の出土遺物が、その後の調査研究に有効に活用されているとは言い難い。これまで、発掘調査後の室内での基礎的な整理調査、的確な事実報告など、考古学調査における基本的な調査研究が十分とは言えない状況が長年続いており、世界的にみても貴重な調査成果が、国外はもちろん国内においても十分に活用されていない。こうした背景から、奈良文化財研究所では令和元年度の文化庁文化遺産国際協力拠点交流事業を申請・受託し、首都ヌルスルタンに所在するカザフスタン共和国国立博物館を現地拠点機関とした交流事業を開始した。現地協議の結果をふまえ、「考古遺物の科学的調査方法」「出土遺物の応急処置と保存処理の方法」「文化財情報のデジタル化の方法」を研修テーマの3本柱とし、同地への技術移転を図った。