国民のアイデンティティとしてのピラミッド神殿
チャルチュアパ遺跡群のタスマル地区
チャルチュアパ遺跡群は、エル・サルバドル共和国で最も歴史の長い遺跡である。タスマル、エル・トラピチェ(El Trapiche)、カサ・ブランカ(Casa Blanca)他の地区に分けられている。チャルチュアパ遺跡群は先古典期前期に人が住み始めた。そして、先古典期中期には、この遺跡群最大のピラミッドをエル・トラピチェ地区に造った。その後、先古典期後期には中心をカサ・ブランカ地区に移し、古典期前期にはタスマル地区が中心となった。このタスマル地区はスペイン征服期まで、チャルチュアパ遺跡群の中心として栄えた。植民地期にも人が住み続け、現在に至っている。一方、タスマル地区ピラミッド神殿は、自国通貨のドル化の前には高額紙幣(100コロン)の図柄になっていた。そして、現在は身分証明書の背景になっており、サルバドル人のアイデンティティともなっている。現在、タスマル地区は、国立遺跡公園となっている。
エル・サルバドル共和国の考古学事情
我々が初めて調査でエル・サルバドル共和国に来た1990年代には、自国の大学を出た考古学者は皆無であった。これは、考古学専攻を持つ大学が無かったせいで、考古学を学ぶために国外に出てしまっていたことが大きな原因であった。このために、サン・ホルヘ大学(Universidad de San Jorge)で初めて考古学専攻が出来たのである。そして、1997年から科研費を使って始まった京都外国語大学の調査では、考古学実習などの授業を引き受けた。しかし、後に考古学専攻とともに、サン・ホルヘ大学の学生5人はエル・サルバドル技術大学(Universidad Tecnológica de El Salvador, 略称UTEC)に移った。