タスマル遺跡公園調査と若手研究者育成

事業名称
タスマル遺跡公園調査と若手研究者育成
国名
エルサルバドル共和国
期間
2004年~2012年
対象名
チャルチュアパ遺跡群タスマル地区
文化遺産の分類
記念物、 遺跡
実施組織
京都外国語大学、名古屋大学
出資元
国際交流基金
事業区分
基礎研究、 地域開発、 人材育成、 保存修復

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背景

Background

国民のアイデンティティとしてのピラミッド神殿

チャルチュアパ遺跡群のタスマル地区
 チャルチュアパ遺跡群は、エル・サルバドル共和国で最も歴史の長い遺跡である。タスマル、エル・トラピチェ(El Trapiche)、カサ・ブランカ(Casa Blanca)他の地区に分けられている。チャルチュアパ遺跡群は先古典期前期に人が住み始めた。そして、先古典期中期には、この遺跡群最大のピラミッドをエル・トラピチェ地区に造った。その後、先古典期後期には中心をカサ・ブランカ地区に移し、古典期前期にはタスマル地区が中心となった。このタスマル地区はスペイン征服期まで、チャルチュアパ遺跡群の中心として栄えた。植民地期にも人が住み続け、現在に至っている。一方、タスマル地区ピラミッド神殿は、自国通貨のドル化の前には高額紙幣(100コロン)の図柄になっていた。そして、現在は身分証明書の背景になっており、サルバドル人のアイデンティティともなっている。現在、タスマル地区は、国立遺跡公園となっている。

エル・サルバドル共和国の考古学事情
 我々が初めて調査でエル・サルバドル共和国に来た1990年代には、自国の大学を出た考古学者は皆無であった。これは、考古学専攻を持つ大学が無かったせいで、考古学を学ぶために国外に出てしまっていたことが大きな原因であった。このために、サン・ホルヘ大学(Universidad de San Jorge)で初めて考古学専攻が出来たのである。そして、1997年から科研費を使って始まった京都外国語大学の調査では、考古学実習などの授業を引き受けた。しかし、後に考古学専攻とともに、サン・ホルヘ大学の学生5人はエル・サルバドル技術大学(Universidad Tecnológica de El Salvador, 略称UTEC)に移った。

  • タスマル遺跡調査に参加した日本とエル・サルバドルの学生

  • タスマル遺跡公園で保存・修復作業する考古課調査員とエル・サルバドル国立大学の学生

活動内容

Activities

メソアメリカ南東部の歴史を若手研究者と探る

エル・サルバドル共和国での日本人による考古学調査
 京都外国語大学の調査が1997-2000年にカサ・ブランカ地区で実施された。この調査では、メソアメリカ最大の都市文明テオティワカンの広がりを中心に研究された。一方、メソアメリカ南東部の南東端にあるエル・サルバドルの歴史については不明な点が多い。例えば、何処から王権が来たのか?何処までがメソアメリカの範囲なのか?といった疑問がある。こうした問題点を解決するために、2000年からチャルチュアパ遺跡群カサ・ブランカ地区で名古屋大学の調査が始まった。タスマル遺跡公園では、2004年から調査を始め、現在も調査を継続中である。名古屋大学とエル・サルバドル技術大学の学生や文化庁考古課の調査員も参加し、ピラミッド神殿の発展史を明らかにするために、発掘調査を継続している。

若手研究者の育成
 京都外国語大学の調査では、現地の若手研究者の育成も目的の一つに挙げられていた。この努力とエル・サルバドル政府の研究機関に就職した日本人研究者の尽力で、エル・サルバドル国内で最初の考古学者5名が生まれた。我々はこの伝統を受け継ぎ、エル・サルバドル技術大学の学生を受け入れて、考古学実習も兼ねて調査を行っている。これは、サルバドル人の学生を鍛えて、若手研究者を育成することが目的になっている。そして、先の長い国際学術交流を目指し、名古屋大学の学生も参加している。

  • 出土した”埋もれた主神殿”(左上) ”埋もれた主神殿”から出土した埋葬0,1の副葬品(左) 埋葬0から出土したトルコ石とヒスイの首飾り(推定復元)(右)

結果

Results

サルバドル人による考古学調査と文化財修復・保存に向けて

サルバドル人による保存修復作業
 タスマル遺跡公園発掘調査では、学術的に意味のある様々な遺構・遺物が出土した。考古学調査の成果が挙げられる一方で、サルバドル人による文化財の保存・修復に対する努力も始まった。2012年には、文化庁考古課のサルバドル人の調査員による初めてのピラミッド建造物の保存・修復作業がタスマルおよびカサ・ブランカ遺跡公園で実施された。これは、エル・サルバドル国立大学(Universidad de El Salvador,略称UES)建築学科の学生が多数参加しての作業となった。この作業は数週間で終了したが、自国の調査員と学生による文化財保護のための初めての仕事となった。こうしたサルバドル人自身の文化財に対する努力に対して、今後も協力をしていきたいと思っている。

チャルチュアパ市の地域発展
 タスマル地区よりも古い時期の文化がみられるエル・トラピチェ地区で、2012年より、文化庁考古課が中心となった共同調査を開始した。この地区は私有地(サン・アントニオコーヒー農園)であり、地主の許可を得て調査を行っている。ここの地主は、NGOのチャルチュアパ市観光協会にも属しており、チャルチュアパ市全体の観光による発展を計画している。一方で、この農園に展示室を設けて一般公開する準備をしている。また、チャルチュアパ市にある2つの国立遺跡公園(タスマル遺跡公園、カサ・ブランカ遺跡公園)を結びつけると共に、私有地であるエル・トラピチェ地区も有機的に結びつけて、文化遺産を利用したチャルチュアパ市観光ルートを確立したいと考えている。今後も、我々は考古学調査をすると共に、こうした文化に対する前向きな動きに貢献したいと考えている。

  • ピラミッド神殿南側から出土した供物

  • エル・トラピチェ地区で地区レーダー探査をする日本とエル・サルバドルの学生

地図

Map

Projects

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