クントゥル・ワシ遺跡の発掘調査と国際的に注目された金製品の発見
大規模な発掘調査によって解明された遺跡の学術的価値
ペルー国北部山地の標高2300mにあるクントゥル・ワシ遺跡は1946年に発見されたが、長い間本格的な発掘調査が行われないまま放置されていた。東京大学古代アンデス文明調査団(団長大貫良夫)は1988年に調査に着手し1997年までの発掘によって、この遺跡が有名なチャビン・デ・ワンタル神殿とともにアンデス文明形成期後期(前800年-前250年)の最重要神殿の一つであったことを明らかにした。その後1998年からは研究拠点を埼玉大学に移して発掘調査を継続し、厖大な調査データの整理分析によって遺跡の学術的意味をさらに解明するとともに、すべての調査資料が活用できる遺跡データベースを完成させた(代表加藤泰建)。この成果を踏まえ、2011年からは新たな発掘も視野にいれた学術調査研究を再開している(代表井口欣也)。これらの学術調査は、日本政府の科学研究費補助金によって継続的に実施されているものである。
アンデス最古の金製品の発見によって生じた文化財保全の緊急課題
1989年に学術調査によるものとしてはアンデス最古の事例となる金製品を伴う墓が発見されて国際的に大きな注目を集めた。さらにその後の調査によって数多くの金製品のほか石彫や彩色レリーフ、装飾土器、装身具など数百点に及ぶ精緻な工芸品の数々が出土したため、これらアンデス文明黎明期の貴重な文化財の保全問題が緊急の課題となった。また、発掘された大規模な石造神殿建築の保存にも取り組む必要が生じてきた。しかし当時のペルー共和国の政治経済状況はかなり不安定であったため、これらの課題の解決は、まず調査者側の責任で進める必要があり、日本側の国際協力によって博物館の建設や遺跡公園の整備を行うこととなった。