クエラップ遺跡の世界遺産登録に係る国際協力
チャチャポヤ文化の聖地としてのクエラップ遺跡
チャチャポヤ(ケチュア語で「雲上の森の民」の意)文化は、紀元5世紀に、アンデス山脈東側に位置するアマゾン川の源流域であるウトゥクバンバ渓谷を中心に興り、激しい抵抗の末、インカ帝国に征服される15世紀まで発展を続けた。本地域のほぼ中央部の標高約3,000mの崖地頭頂部に位置するクエラップ遺跡は、北側が断崖絶壁で、周囲を高さ約20m に達する石壁に取り囲まれ、外部からのアクセスが3本の狭い通路のみに限られているなどの特徴から、当初は「要塞」と考えられていた。しかし近年の考古学調査により、本遺跡は、チャチャポヤ文化の影響下にある様々な地域コミュニティの人々が、千年以上にわたって建設し続けた「チャチャポヤ文化の聖地」であったことが明らかになってきた。
クエラップ遺跡の世界遺産登録申請へ向けた技術協力の要請
ペルー国は、近年堅調な経済成長を達成している一方、貧困や国内格差の問題が深刻である。そのためペルー国政府は、開発の遅れている北部地域の貧困削減を目指して、観光開発による北部観光回廊の形成を計画し、JICA 有償資金協力で「アマソナス州地域開発事業」を進めている。アマソナス州は北部観光回廊の中心地域の一つであり、その主要な観光資源であるクエラップ遺跡は、第二のマチュピチュとも呼ばれており、文化遺産としての価値に対する評価が高い。ペルー国文化省は、2003年に遺跡の保護を目的とした「クエラップ遺跡管理計画」を策定し、2011年には本遺跡を世界遺産の国内暫定リストに掲載している。
近年の世界遺産登録にかかる議論においては、文化遺産の保全と観光利用への地域コミュニティの関与が求められているものの、ペルー国政府には、これまでにそういった住民主体の文化遺産保全や観光開発の経験がない。
このような状況でペルー国文化省はJICAに技術支援を要請し、本業務を関雄二教授(国立民族学博物館)のアドバイスのもと、北海道大学観光学高等研究センターとエスティ環境設計研究所が共同で事業を実施することとなった。