1)シリア文化遺産の重要性を伝える教育活動の継続
以前の緊急調査事業で、シリア文化遺産の重要性をシリアの人々に伝えるために非常に大きな役割を果たした『100の遺跡が語るシリアの歴史』アラビア語版Tarikh Souria fi Mia Muwaqa Ashariya第2版を2018年1月に、さらに第3版を2020年1月にDGAMの協力を得てダマスカスで印刷出版し、シリア内外の教育施設に配布した。また、この本を使ってトルコ・イスタンブールでシリア難民の教員や学生とワークショップを行い(2019年3月)、シリアの歴史の重要性についての議論を深めた。さらに、より小さな子供たちにシリアの先史時代の重要性を伝える『まんがで読む文明の起源:シリアの先史時代』アラビア語版Asl alhadarat alsuwriat eusur ma qabl altaarikhを作成(2019年12月)し、配布した。
2)イドリブ博物館復興への支援
イドリブ県で古代オリエント博物館や筑波大学が調査を実施してきたこともあり、日本の考古学調査隊とイドリブ博物館は深い関係にあった。またイドリブ博物館にはエブラ王国の首都であるテル・マルディーフからの出土品、世界遺産「北シリアの古代村落群」からの出土品なども収蔵され、シリアでも有数の博物館であった。しかし内戦が始まり、特に2016年9月にシリア政府による激しい爆撃を受け、収蔵庫を含めてひどく被災してしまった。この博物館は、それ以降も反政府側が占拠していたが、2018年ごろからNGOイドリブ文化財センターが積極的に管理にかかわるようになり、博物館や収蔵庫の修理、たくさんの被災した遺物の記録、修理、保存など、博物館の復興に努力している。私たちは、イドリブ博物館が収蔵する極めて重要な文化財の散逸を防ぎ、少しでも良好な状態を保つために、イドリブ文化財センターに助言や支援を行った。
3)破壊の危機にある遺跡のデジタルデータによる記録
NGOイドリブ文化財センターに、世界遺産「北シリアの古代村落群」に所在する重要で被災する恐れの大きい初期教会のデジタルデータの収集を引き続き依頼し、3Dイメージによる記録を行っている。特に、4世紀に帰属する最初期の教会と言えるKirkbize,さらに5世紀の良好な残りのSerjilla教会について、膨大な量の連続したデジタル写真の撮影を依頼し、日本にデータを送付してもらって、中部大学の渡部展也が詳細な3Dイメージを復元し、冊子及びホームページ上でデータを公開した。
4)古代オリエント博物館での「危機にあるシリア文化遺産の記録」開催
上記のシリア文化財に対する私たちの保全保護活動のうち特に3)の活動について一般に広く広報するために、2019年6月8日―6月30日に古代オリエント博物館においてクローズアップ展示「危機にあるシリア文化遺産の記録」を開催した。
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100の遺跡が語るシリアの歴史アラビア語版 Tarikh Souria fi Mia Muwaqa Ashariya 第2版Salhani Publishing 2018年。
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同書を使ってシリア難民の教員や学生と行ったワークショップ(2019年3月イスタンブール)。
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被災したイドリブ博物館の復興支援(被災後)
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被災したイドリブ博物館の復興支援(復興後)
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破壊の危機にある遺跡のデジタルデータによる記録 Serjilla遺跡の5世紀教会の3D復元モデル(渡部展也による)