アイン・ダーラ遺跡ならびに同研究施設と日本国との関わり
中近東では過去幾度も政情不安が生じてきたが、2011年に始まり現在も続くシリア の争乱は近年、最も深刻なものの一つであり、現地文化遺産にも甚大な被害を与えるにいたっている。シリアでは1957年の東京大学の遺跡踏査以来、日本人による考古学遺跡、遺物の調査が活発におこなわれてきており、その学術的貢献は国際的にも高く評価されている。今般の政情不安においても、これまで深く日本人が関わってきたシリア文化遺産の現状、行く末について無関心ではいられない。この事業においては、2020年度において新たに発生した、アイン・ダーラ遺跡ならびにその関連施設の被災にかかわる調査研究を実施した。
アイン・ダーラ遺跡はシリア北西部、アレッポ県にある鉄器時代の重要都市遺跡である。この遺跡では、1990年代に東京国立文化財研究所が石造神殿遺構の保存修復を実施した実績がある。また、遺跡に併設されている研究・収蔵施設の一部は東京大学の発掘隊が近郊にある旧石器時代デデリエ洞窟遺跡を調査研究するために1990年代に建造したものであり、内戦勃発まで活発に利用されていた。さらに、同施設はデデリエ洞窟出土品だけでなく、同じく東京大学が1990年代に発掘したアレッポ県東部の新石器・銅石器時代テル・コサック・シャマリ遺跡の出土品も収蔵していた。すなわち、日本の機関にとってシリア国における重要な研究拠点の一つであった。