ウズベキスタンにおける仏教文化遺産の調査・保護に関する国際貢献事業

事業名称
ウズベキスタンにおける仏教文化遺産の調査・保護に関する国際貢献事業(令和2年度 緊急的文化遺産保護国際貢献事業)
国名
ウズベキスタン
期間
2020年~2020年
対象名
ズルマラ仏塔
文化遺産の分類
遺跡
実施組織
立正大学ウズベキスタン学術調査隊
出資元
文化庁
事業区分
基礎研究

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背景

Background

テルメズの仏教遺跡の調査

ウズベキスタン共和国には、サマルカンド、ブハラなど古くからのシルクロードの要地が点在しているだけでなく、イスラーム化以前の遺跡も数多く存在する。同国はイスラーム教徒が人口の大半を占めることもあり、仏教遺跡に強い関心が見られないが、同国内に遺跡があることは、仏教文化を有する日本との重要な接点といえる。 
 立正大学ウズベキスタン学術調査隊(以下、本学)は、故加藤九祚氏によるテルメズ市郊外のカラテペ遺跡の発掘調査をうけて、2014年から現地遺跡の活動に携わってきた。2017年度から3ヶ年は、カラテペを含む同地の仏教遺跡群の発掘調査を主軸としたプロジェクトが、文部科学省の私立大学研究ブランディング事業として支援をうけ、最初に調査を手がけたカラテペ遺跡の報告を公刊できた。2020年2月以降はコロナ禍にあって現地活動が困難となったが、文化庁の文化遺産保護国際貢献事業に採択されたことで、ズルマラに関する調査の中間報告を刊行できた。ズルマラは、2世紀に創建されたとみられる仏塔で、すでに外装部分は失われて、日干しレンガを積み上げた塔身約13mが残る。塔は毀損が進行しつつある。
 以下では、このズルマラ仏塔に関する調査の経過と報告の概要を紹介する。なお、2022年夏に至っても現地での活動は再開できていないが、現地研究者たちとの情報交換や研究活動は継続中である。

  • カラテペ遺跡(立正大学撮影)

  • ズルマラ仏塔(立正大学撮影)

活動内容

Activities

ズルマラ仏塔の調査と保存

ウズベキスタン共和国スルハンダリヤ州テルメズ市郊外に位置する仏教遺跡とは、ファヤズテぺ(寺院址)、カラテペ(寺院址)、ズルマラ(仏塔)のことである。従来の研究によれば、これらは、クシャーン朝のカニシュカ1世治世前後に古テルメズの町(城址)の郊外にそれぞれ創建されたと考えられている。このうちズルマラ仏塔は、外装は失われているものの、日干しレンガを積み上げた塔身約13mが残っており、中央アジアの仏塔として威容を誇る。
 本学は2016年からテルメズ考古学博物館と共同で、このズルマラ仏塔の調査に着手した。仏塔の周囲を網羅的に近接撮影し、古写真を収集して劣化状況の経年変化を確認し、環境観測装置を設置して湿度や気温の変化が日干しレンガの建材に与える影響を計測した。またこうした各種の調査に際しては日本国内の諸機関に属する遺跡保存科学、建築史、ガンダーラ仏教遺跡、地盤工学など多岐にわたる研究者の協力を仰いだ。2018年からは考古学博物館のほかテルメズ国立大学、芸術学研究所と共同で、創建時の状況を探るため、塔周辺の発掘に着手し、2019年も作業を継続した。この間、ドローンによる撮影、3D計測などもおこなった。その結果、この仏塔は2世紀前後に建てられたこと、僧院を伴わない仏塔であることをほぼ裏付けることができた。また著しい毀損がはじまったのは1970年代以降であり、現在では地震等の影響を受け崩壊の恐れがあることもわかった。しかし2020年2月にコロナ禍で活動は延期となった。 
 2020年度におこなわれた事業では、テルメズ国立大学および芸術学研究所などとオンラインでやりとりしながら、上述の調査報告をまとめ、修復の方法や復原モデルの原案を作成すると同時に、その原稿をもってウズベキスタンと日本の識者から今後の課題を提示いただいた。報告書は日本語とロシア語の対訳で記し、Webで公開した。

  • ズルマラ仏塔(ドローンによる撮影:立正大学)

  • 塔の傾斜状況を示す図(高原利幸氏作図)

結果

Results

遺跡を適切に保存し現代にいかす

中央アジアの代表的な仏教遺跡であるズルマラ仏塔は、近年著しく毀損が進行しつつあり、放置しておけば、現在の塔の形状を維持できる期間はそう長くないと思われる。しかし、北インドと東アジアを仏教でつなぐ可能性のある足跡のひとつとみなしうる遺跡が風化していく現状を見過ごすわけにはいかない。本学の活動により、ズルマラ仏塔の歴史的価値の再確認や、保存に役立つ情報の提示まではできたと自負している。
 近年、ウズベキスタンでは、ズルマラ仏塔をはじめとした仏教遺跡を観光資源として活用することが検討されはじめている。しかし、遺跡を観光資源として利用したい行政側と、調査研究する機関との話し合いの場が十分にもうけられているようにはみえない。本学はこれまで両者の主張を聞く機会をつくってきたが、2020年のコロナ禍以降、そうした機会を失った。オンライン上で先方のいずれか機関が準備する学会・イベントでは、関係者間の遺跡保存に対するイメージに乖離がみられている。
 本学は、今後、周辺の調査や環境観測装置のデータ解析など仏塔に関する基礎研究をさらに深めると同時に、こうした諸機関への遺跡保存に関する働きかけも継続できればと考えている。

※なお、現地では、カラテペは「カラテパ」、ファヤズテペは「ファヤズテパ」と発音します。

  • 本報告書の表紙

  • ズルマラ仏塔復原イメージ案(Akmal Ulmasov氏作図監修)

地図

Map

Projects

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