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第19回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「シルクロード―世界遺産登録後の問題と日本の課題―」を開催しました(2016.12.26)

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11月21日(月)、東京文化財研究所セミナー室にて、第19回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「シルクロード―世界遺産登録後の問題と日本の課題―」を開催しました。2014年6月に「シルクロード:長安―天山回廊の交易路網」として長大なシルクロードの一部が世界遺産に登録されてから2年が経過しましたが、本研究会ではシルクロードの世界遺産を取り巻く近年の状況や各国の動向を情報共有するとともに、「草原の道」のシルクロード、そして日本も含めた「東アジア」におけるシルクロードの今後の課題について議論しました。

岡田保良文化遺産国際協力コンソーシアム副会長(国士舘大学イラク古代文化研究所所長)による開会の挨拶の後、山内和也氏(帝京大学教授)が「世界遺産登録後の問題と将来に向けた各国の動向」と題して講演を行いました。2014年に「シルクロード:長安―天山回廊の交易路網」として世界遺産リストに登録された遺産の現在の状況と、今後登録国が解決すべき課題、またそれに関わる日本の協力に言及するとともに、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンが中心となって現在世界遺産登録の申請を推進している「フェルガナ―シルダリヤ回廊」や、ロシア共和国(タタルスタン共和国)が世界遺産登録申請への参加を表明した「ヴォルガ回廊」、さらに「海の回廊」といったように、それぞれの国や地域で新たに進められているシルクロードの世界遺産登録への取り組みについても紹介しました。

続いて、林俊雄氏(創価大学教授)が「草原の道の世界遺産を考える」と題して、草原地帯における考古学の最新の研究成果を紹介しつつ、古代の東西交流史における、モンゴル高原から黒海北岸にわたる草原地帯を通じた交易路の重要性を改めて強調しました。また「草原の道」の世界遺産登録を見据え、候補となりうる大型古墳や王候墓といった遺跡を紹介するとともに、適切な保全計画の必要性等についても言及しました。

鈴木靖民氏(横浜市歴史博物館館長)は、「古代日本とシルクロード研究―東部ユーラシア世界論を中心として―」と題して、シルクロードと古代日本との関係を論じました。講演の中では、シルクロードを通じて日本に運ばれた物や文化を紹介するとともに、冊封体制論に代表される東アジア世界論に続き、日本史側から近年新たに提唱されている「東部ユーラシア世界論」という概念について説明しました。

その後、北本朝展氏(国立情報学研究所准教授)が、「ディジタル・シルクロード・アーカイブス構想」と題して講演を行いました。2001年に国立情報学研究所とユネスコとの国際共同研究に端を発して開始した「ディジタル・シルクロード・プロジェクト」は、現在2016年4月から始動した人文学オープンデータ共同利用センターの活動の一部として位置づけられており、その現状と今後の展望を紹介しました。同時に歴史学分野におけるデジタル技術活用の可能性についても論じました。

各講演終了後には「東アジアにおけるシルクロード」と題して、青木繁夫氏(東京文化財研究所名誉研究員)の司会のもと、パネルディスカッションを行いました。冒頭では、パネリストとして加わった早乙女雅博氏(東京大学教授)が、考古資料に基づき、朝鮮半島を介して行われた東西の物の伝播や文化交流の様相を語り、東西交流史においてシルクロードが果たした役割について、東アジアの視座から解説しました。

ディスカッションの中では、東アジアにおけるシルクロードに関する課題を中心に、シルクロードという語のもつ多義性、また紀元前2世紀以降を対象とするシルクロードの世界遺産登録における時代幅の再考についても意見が述べられる等、幅広い議論が行われました。また東アジアとシルクロードの関係を問い直す上で、北本氏が中心になって進めている「ディジタル・シルクロード・アーカイブス」が、今後議論を進めていく上での情報基盤になりうる可能性についても触れられ、人文学と情報学が協働することの重要性が改めて認識されました。

閉会の挨拶の中で、前田耕作文化遺産国際協力コンソーシアム副会長(和光大学名誉教授)は、近年各国において、世界遺産登録を見据えて「シルクロード」に関するテーマで活発に議論が行われているのとは対照的に、日本においてはシルクロードに対する関心が下火になりつつある現状を憂慮するとともに、日本も含めた東アジアにおける「シルクロード」の意味を改めて問い直す必要があると呼びかけました。

今回の研究会では約110名の参加者があり、シルクロードの世界遺産登録の現状と、日本も含めた各国の今後の課題、そして東アジアにおけるシルクロードについて改めて考えて頂く機会となりました。
※プログラムや開催概要はこちらをご覧ください。
研究会開催に関しまして、ご協力下さいました関係者の皆様、並びにご参加下さいました皆様に深く御礼申し上げます。

 

 

 

【写真説明】(上から)
1:会場の様子
2:岡田保良副会長による開会挨拶
3:山内和也氏による講演の様子
4:林俊雄氏による講演の様子
5:鈴木靖民氏による講演の様子
6:北本朝展氏による講演の様子
7:パネリストの早乙女雅博氏
8:パネルディスカッション司会の青木繁夫氏
9:パネルディスカッションの様子
10:前田耕作副会長による閉会挨拶

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