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第36回研究会「日中韓における文化遺産政策のいま―近年の法改正をめぐる背景と展望―」を開催しました

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 文化遺産国際協力コンソーシアムでは、文化庁との共催、外務省の後援のもと、2025(令和7)年9月14日(日)に第36回研究会「日中韓における文化遺産政策のいま―近年の法改正をめぐる背景と展望―」を、東京文化財研究所地階セミナー室にて開催しました。本研究会は、日中韓3か国の交流促進、相互理解の深化、協力関係の強化に資するものとして、3か国の政府が公認する「2025–2026日中韓文化交流年記念事業」の一環にも位置づけられています。
※研究会の開催概要・プログラムについては、こちらをご覧ください。

 近年、少子高齢化や都市への人口集中、地球温暖化の進行など、急速な社会的・環境的変化を背景に、世界各国で文化遺産保護のあり方を見直す動きが進んでいることに着目し、本研究会では、特に過去10年間で政策転換が進んだ東アジアの3か国―日本・中国・韓国―を取り上げました。各国が直面する社会的背景や政策的課題、制度的対応について議論を深めるとともに、共通の課題への取り組みを通じた相互理解の促進を図り、あわせて各国が推進する文化遺産国際協力の最新動向を共有する場としました。

 当日は、小嶋芳孝東アジア・中央アジア分科会長(金沢学院大学名誉教授)による開会挨拶・趣旨説明で始まり、続いて日中韓の4名の登壇者より、各国における課題や取り組みが報告されました。

 はじめに文化庁文化資源活用課塩川達大課長より、「日本の文化財保護政策と文化遺産国際協力」と題し、文化財保護法の歴史と体系、近年の法改正の概要、予算措置や施策、文化遺産国際協力体制についての報告がされました。過疎化・少子高齢化といった社会変化に対応するため、近年の法改正では、地域における文化財の計画的な保存・活用の促進、無形文化財および無形の民俗文化財の登録制度や地方公共団体による文化財登録制度の新設を重点的に行い、さらに文化財修理や文化財防災、文化資源の活用による観光振興、文化遺産国際協力といった幅広い分野の施策を必要に応じて効率的に実行していく体制への転換を意図していることが説明されました。そのためには、文化遺産がコミュニティや地域住民にとって不可欠な存在であるという価値認識を共有・確立していくことが重要性であり、日本の文化財保護の取り組みが人口減少に直面するアジア諸国の先行的なモデルとなり、ひいては各国の連携した取り組みや文化遺産国際協力のあらたな展開に繋がることへの期待が述べられました。

 次に復旦大学文物与博物館学系杜暁帆教授より、「中国における文物保護法の改正および文化遺産国際協力の現状」と題して、文物保護法の変遷、昨年の法改正の概要、そして近年の文化遺産国際協力事業についての報告がされました。まず、中国における文化遺産保護制度は20世紀初頭の清朝末期にまで遡り、戦争や内乱といった混乱期においても保護への意識は途絶えることなく、1982年に現行の文物保護法が制定された歴史的な流れが示されました。そして、近年の文化遺産に対する政治的・社会的関心の高まりや制度運用上の課題を受けて2024年に同法が全面改正され、違法な開発行為からの保護の強化や、観光開発の規範化による文化遺産保護と社会経済の持続可能な発展との調和が図られていることが説明されました。文化遺産国際協力に関しては、東南アジアや中央アジアを中心に保存修復事業が活発に進められており、大学・研究機関・民間団体といった新たなアクターも参入していることから、彼らの関心に応じて協力の目的や方法にも変化が生じていくとの見通しが示されました。

 韓国からは、まず国家遺産庁革新行政担当官室ベク・ヒョンミン行政事務官より、「国家遺産基本法と国家遺産体制への転換」と題して、昨年に施行された国家遺産基本法の概要や法改正に伴う国家遺産庁の新体制についての報告がされました。「文化財」という言葉の用語的限界やユネスコが定める国際基準との乖離といった背景から、従来の文化財保護法に代わって国家遺産基本法が制定され、「文化財」から「国家遺産」への名称変更や分類体系の抜本的な見直しが行われたほか、気候変動への対応、広報、人材育成といった新たな条項も加えられたことが説明されました。また、今回の法改正と改組の大きな意図としては、「遺産」の確実な継承を保障しつつ、国民がより広くその恩恵を享受できる仕組みの構築が目指されていることが強調されました。

 続いて国家遺産庁遺産政策局国外遺産協力課パク・ヒョンビン課長より、「国家遺産庁の国際協力」と題して、韓国による国際協力の変遷および近年の国家遺産庁による文化遺産国際協力事業についての報告がされました。2000年代までの日本や中国との二国間交流から2010年代以降にODAを通じた国際開発協力へと軸足を移し、2020年代にはアジアのみならずアフリカや中南米といった地域へも支援を拡大してきた大きな流れが説明されました。そして、こうした近年の急速な事業の拡大に適切に対処していくために関連法令や事業遂行システムを見直す必要性にも言及しながら、目指すべき文化遺産国際協力の展望が示されました。

 以上の講演をうけてのディスカッションでは、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻海野聡准教授がモデレーターを務め、九州大学法学研究院国際関係法学部門八並廉准教授をコメンテーター、4名の報告者に加えて友田正彦事務局長をパネリストに迎え、各国の文化遺産政策および国際協力の現状について活発な議論が交わされました。八並准教授からは、韓国の法改正が国際基準を意識し、用語や分類体系が他国にも理解しやすい形で整備されていることを法律の透明性(transparency)の観点から評価したうえで、世界遺産登録や国際協力における法整備支援などの面で優位性があるとの指摘がされました。また友田事務局長からは、文化遺産国際協力の実施体制は国ごとに異なるものの、今後は日中韓が同一地域で事業を行う機会が増えると見込まれる中、法改正や改組によって3か国間の連携が取りやすくなることで被援助国にとってより良い支援につながるとの期待が述べられました。最後に海野准教授から、文化遺産に関する法改正が日中韓の3カ国で同時期に進められていること自体が今の時代を象徴するとの発言があり、かけがえのない文化遺産を確実に未来へ継承していくためには本研究会のような相互的な議論の場が国を超えて文化遺産保護を強化する土台となる、と総括されました。

 最後に青木繁夫副会長が閉会挨拶を行い、全てのプログラムを終了しました。

 当日は80名を超える方々に会場まで足をお運びいただきました。ご参加くださった皆様、ならびに本研究会の開催にあたりご協力いただいた関係者の皆様に、主催者一同、改めて心より感謝申し上げます。

※後日、本研究会の報告書を公開予定です。また、研究会を収録した動画もコンソーシアムYouTubeチャンネルにて公開する予定です。チャンネル登録もぜひお願いします。
※本研究会に関連して、コンソーシアムによる令和6年度国際協力調査をまとめた「韓国の遺産保護に係る制度改革および国際協力体制に関する調査報告書」も公開中です。是非ご覧ください。

 

登壇者および関係者の集合写真

 

ディスカッションの様子

 

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