文化遺産国際協力コンソーシアムは、2026年1月17日(土)、文化庁との共催により、第37回研究会「文化遺産保護の国際動向」を、東京文化財研究所 地階セミナー室にて開催しました。本研究会では、世界遺産条約および無形文化遺産保護条約をめぐる近年の国際的動向や、アフリカ地域を中心とした文化遺産の真正性をめぐる議論を手がかりに、文化遺産保護の理念や国際協力のあり方について考える機会としました。
※研究会の開催概要・プログラムについては、こちらをご覧ください。
開会にあたり、岡田保良副会長(文化遺産国際協力コンソーシアム 副会長/日本イコモス国内委員会 委員長)より挨拶および趣旨説明が行われ、条約運用の変化や現場が直面する課題を共有するとともに、コミュニティとの関係性を重視した文化遺産保護の将来像を検討する本研究会の目的が示されました。
講演では、はじめに文化庁文化資源活用課の西和彦主任文化財調査官が「世界遺産条約をめぐる昨今の動向」と題し、 世界遺産条約の基本的枠組みを踏まえつつ、2025年世界遺産委員会を中心とした近年の委員会運営や議論の方法について概説しました。新規登録を巡っては、諮問機関の勧告と委員国による最終決定との乖離が恒常化しつつある現状が指摘され、UAE「ファヤの古代景観」やカンボジアの「記憶の場所」といった事例を通じて、価値評価や意思決定の揺らぎが解説されました。さらに、保全状況審査の簡略化や危機遺産の扱いの変化にも触れ、委員国構成の変化や遺産影響評価(HIA)を重視する保全方策の広がりを背景に、世界遺産の理念と意思決定のあり方が転換期にあることが示されました。
次にアジア太平洋無形文化遺産研究センター(IRCI)の野嶋洋子研究担当室長からは、「無形文化遺産の保護に関する条約をめぐる近年の国際動向」と題して、 代表リスト、緊急的保護リスト、グッドプラクティス登録制度の趣旨と現状が整理されるとともに、代表リスト偏重を是正するための対話プロセスの正式化や申請手続の簡素化、緊急保護リストから代表リストへの移行など、近年の制度改善が報告されました。さらに、政府間委員会における新たな運用動向や、持続可能な開発(SDGs)との連携、有形・無形文化遺産の相乗効果をめぐる国際的議論を踏まえ、コミュニティ主体の視点の重要性が強調されました。
続いて芝浦工業大学の岡崎瑠美准教授は、「アフリカにおける遺産のオーセンティシティに関する国際会議での議論」と題して、アフリカにおける人口増加や急速な都市化、植民地的価値観の影響を背景として、世界遺産数の少なさや危機遺産の多さといった文化遺産をめぐる構造的課題を整理しました。あわせて、ナイロビで開催された国際会議の議論やエチオピアにおける調査事例をもとに、真正性をコミュニティ中心の動態的な概念として再定義し、文化遺産が人々の生活の中で意味を更新され続ける存在であること、そのプロセスを尊重する保護のあり方の重要性が示されました。
以上の講演をうけてパネルディスカッションが行われました。聖心女子大学の岡橋純子教授がモデレーターを務め、3名の報告者をパネリストに迎えてのディスカッションでは、世界遺産条約・無形文化遺産条約の運用変化を軸に、委員国構成の変化、遺産影響評価(HIA)の重視、コミュニティ主体性、有形・無形文化遺産の相乗効果、気候変動や持続可能な開発との関係について多角的に議論が展開されました。最終的に、現場とコミュニティを基点に両条約を横断する対話を深めていくことの重要性、ならびに日本が専門的知見と人的交流を通じた国際貢献を継続的に積み重ねていく必要性が共有されました。
最後に青木繁夫副会長が閉会挨拶を行い、全てのプログラムを終了しました。
当日は80名を超える方々に会場まで足をお運びいただきました。ご参加くださった皆様、ならびに本研究会の開催にあたりご協力いただいた関係者の皆様に、主催者一同、改めて心より感謝申し上げます。
※後日、本研究会の報告書を公開予定です。また、研究会を収録した動画もコンソーシアムYouTubeチャンネルにて公開する予定です。チャンネル登録もぜひお願いします

左:パネルディスカッションの様子
右上段:岡田保良副会長による開会挨拶、西和彦氏による講演
右中段:野嶋洋子氏による講演、岡崎瑠美氏による講演
右下段:モデレーターの岡橋純子氏、青木副会長による閉会挨拶