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令和7年度シンポジウム「紛争からの復興と文化遺産」を開催しました

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文化遺産国際協力コンソーシアムは、11月30日(日)に文化庁との共催で令和7年度シンポジウム「紛争からの復興と文化遺産」を、東京大学 弥生講堂 一条ホールにて開催しました。世界各地で紛争が続き、国際社会のメカニズムが流動化する今日の状況下における文化遺産国際協力のあり方について考える機会といたしました。

※シンポジウムの開催概要・プログラムは、こちらをご覧ください。

都合により急遽欠席した關雄二会長に代わり、青木繁夫副会長が代読した開会挨拶では、紛争を経験した地域において文化遺産には新たな価値や意味が与えられるとともに、その過程には複雑な記憶のせめぎあいが存在することが指摘されました。そして、そうした現場に立場の異なる人々がどのように向き合い、関与しうるのかについて議論を深めたいという、今回のシンポジウムの大きな背景が語られました。

続いて、山内和也西アジア分科会長(帝京大学文化財研究所 所長)が行った趣旨説明では、国の復興や社会の再建プロセスにおける重要なカギとしての文化復興の意義が改めて強調され、復興支援のパッケージの中に有形・無形の文化遺産保護分野の支援を位置づけることの重要性が述べられました。さらに、紛争終結後における文化遺産保護活動の事例を踏まえて、国際社会による支援や協力の重要性、文化遺産の復興が国や社会の復興に与える影響、日本の果たすべき役割等について再考しようとする本シンポジウムの企画意図が示されました。

星野俊也氏(国連システム合同監査団 監査官 / 大阪大学 名誉教授 / 元国連日本政府代表部大使)による基調講演「紛争からの復興と文化遺産:国際社会の役割とは」では、「文化遺産保護を通じた平和」の可能性が、平和の論理や国際的な支援の枠組みと紐づけながら語られました。支援対象者が抱く「思い」へのリスペクトと「信頼」に根差したサポートという日本外交の強みが示され、自己利益と他者利益の双方を尊重した国際支援を産官学連携で推し進めていくこと、文化遺産に触れて感動するという体験を大切にし、その魅力を共有・発信していくことの重要性が強調されました。

松本太氏(一橋大学 国際・公共政策大学院 教授 / 前駐イラク大使 / 元駐シリア臨時代理大使)による講演1「日本の中東外交と文化遺産の保護」では、シリアやイラクで大使の任に当たられた経験を踏まえつつ、外交の視点から見た文化遺産保護の役割やその位置づけについて報告されました。復興支援の中の一要素として文化遺産保護を位置づけることや、支援受入国がどのような国のあり方を目指しているのかを把握したうえで支援のあり方を検討すること、世論を喚起するためにも日本人考古学者の活動実績を途切れさせないことの重要性が強調されました。

下田一太氏(文化遺産国際協力コンソーシアム 東南アジア・南アジア分科会委員 / 筑波大学芸術系 教授)による講演2「カンボジアにおける遺跡保存と地域発展」では、カンボジアにおける様々な遺跡保護の取り組みや課題点、国際支援と地域社会との共生のあり方について報告されました。また、地域の主体性の尊重、文化的文脈への高い感受性、意思決定の柔軟性、活動の持続可能性といった面で草の根レベルの支援が有するアドバンテージについても述べられました。さらに、平時において研究者個人を中心とした学術的研究が協力のベースを築いた上で、紛争時にはユネスコや国際NGO、各国政府などが主導して遺産の保護やモニタリング等を行い、その後の復興過程では産官学が連携して地域発展と連動したプログラムを展開していく、といった連動の重要性が強調されました。

西藤清秀氏 (文化遺産国際協力コンソーシアム 運営委員 / 奈良県立橿原考古学研究所 技術アドバイザー)による講演3「パルミラ遺跡の破壊を契機とするシリア人人材育成と遺跡復興に向けた活動」では、国連開発計画(UNDP)の資金をもとに奈良県立橿原考古学研究所が取り組んできた文化遺産保護分野におけるシリア人人材育成のプロセスやその課題点について報告されました。時々の国際情勢やシリア国内の状況変化が支援のあり方に及ぼす影響について具体的経験に即して述べられ、シリアの文化遺産を次世代に継承していくためには研修プログラムの提供や機材の供与といった支援を根気強く行っていくことが不可欠であることが強調されました。

以上の講演を受けて、清岡央氏(読売新聞東京本社 論説委員)がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、文化遺産保護を復興支援の中に位置づける意義や、そこで日本が果たすべき役割について活発な議論が交わされました。文化遺産がもたらす「心の復興」への期待、地域主体という考え方や復興支援が帯びる政治性、危険度判定の難しさや専門的マンパワーの制約といった活動実施上の課題、日本の国際機関との向き合い方、文化遺産を通して「感動すること」の重要性など、多岐にわたる論点から問題提起がなされました。

最後に、岡田保良副会長が行った閉会挨拶では、二人の元大使や現役のジャーナリストを含む充実した登壇者を迎えられたことへの感謝とともに、文化遺産保護分野における復興支援は社会的・文化的効果の高い取り組みであることが改めて強調され、すべてのプログラムを終了しました。

本シンポジウムには、会場とオンライン視聴を合わせて、文化遺産学・考古学分野を中心に117名の方々にご参加いただきました。ご参加の皆様、ならびに開催にあたってご協力いただいた関係者の皆様に、改めて心より感謝申し上げます。

※後日、本シンポジウムの報告書を公開予定です。また、シンポジウムを収録した動画もコンソーシアムYouTubeチャンネルにて公開する予定です。チャンネル登録もぜひお願いします。

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