2017年10月7日(土)、東京国立博物館平成館大講堂において、シンポジウム「東南アジアの歴史的都市でのまちづくり―町の自慢を、町の魅力に―」を開催しました。
本シンポジウムは、東南アジアにおける歴史的都市の文化遺産について、保護状況の共有と活用のための管理計画のあり方を検討することを目的に、シンガポール、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、ベトナムから5名の有識者・実務家を招聘し、日本の専門家も交えて議論を行いました。
シンポジウムの冒頭では、主催者として石澤良昭会長より開会挨拶が行われ、本会が東南アジアの歴史的都市の背景にある人々の取組みについて議論する場となるよう期待が述べられました。
基調講演では、「保存とは人々がすべてである:アジアの都市における歴史的な町並みの保存と持続可能な発展」として、シンガポール国立大学准教授のヨハネス・ウィドド氏に登壇頂きました。急速に発展するアジアの各都市において失われる伝統文化と歴史的景観を、開発の中にどう位置づけて保存していくかという点について、ユネスコのHUL(歴史的都市景観)の概念を交えつつ説明が行われました。特に、保護計画のあり方については、住民が担う感性的な部分と専門家や行政が担う理性的な部分のバランスや、歴史を経て重ねられた何枚もの空間的なレイヤーを透かしながら未来の都市計画を描くことの重要性が提言されました。
続いて、「ジョージ・タウンのリビングヘリテージを持続させる-世界遺産都市の挑戦-」として、ペナン・ヘリテージ・トラスト評議員のクレメント・リャン氏の講演が行われました。2008年に世界文化遺産に登録されたペナン州ジョージ・タウンについて、1980年代以降の経済危機に伴う伝統的な職人文化の衰退の状況と、この改善のためのペナン・ヘリテージ・トラストの活動について紹介が行われました。「Living Heritage Treasures of Penang Awards(ペナン人間国宝)」の創設や「Penang Apprenticeship Programme for Artisans(ペナン職人徒弟プログラム)の実施などを通して、伝統的職業の活性化を図る取組みが紹介されました。
続いて、「持続可能な発展のツールとしてヤンゴンの遺産を保存する」として、ヤンゴン・ヘリテージ・トラスト所長/副会長のモーモー・ルウィン氏の講演が行われました。ヤンゴンの歴史とそれに伴う都市景観の移り変わり、そしてこの都市が抱える課題について報告が行われました。国際化・経済発展とともに無秩序に行われる開発に対し、政府・民間企業・市民・専門家等に向けた政策提言を行い、包括的な都市管理計画の中に文化遺産を位置づけ、保存を目指すヤンゴン・ヘリテージ・トラストの取組みについて紹介されました。
休憩を挟んだ後、4つ目の講演「小さな町が抱く大きな夢:世界遺産都市ビガンと、遺産が主導する持続可能な発展」として、聖トマス大学大学院CCCPET所長のエリック・ゼルード氏が登壇しました。1960年以降、政情悪化により衰退した都市であるビガンが、どのような戦略で世界文化遺産都市として発展を遂げたのかについて、住民のアイデンティティ、地域保存計画の一体化、国際社会との連携、観光開発に重点を置いた取組みが紹介されました。
続いて、「ホイアンの文化遺産保護と現代社会発展の対立を解決する」として、元ベトナム・ホイアン市人民委員長のグエン・スー氏の講演が行われました。歴史的町並みを保護・活用し世界遺産都市として発展させる過程で、様々なステークホルダーとの間で起きる対立をどのように解決させてきたのか、行政側の主導者であったスー氏の実際の施策とその理念についての報告が行われました。保護と開発は相反するものではなく、施策にあたっては新旧市街区への投資のバランスの重視、住民のコンセンサスおよび自発的な保護活動を促進する対策等を実施したことが紹介されました。
6つ目の講演「ホイアン旧市街のまちづくりと日本の国際協力」として、昭和女子大学国際文化研究所所長の友田博通氏が登壇しました。氏がこれまでに取り組んできたベトナムの町並み保存に関する国際協力事業の紹介が行われました。日本政府やJICAとの連携のもと、ホイアンでの家屋修復に伴う技術移転や人材育成活動、その後の観光整備・市民交流等の協力のほか、ドンラム村・フクティック村、カイベー県での集落・建造物の保存・修復・管理に関する事業等についても報告されました。
休憩の後、これまでの講演者が再度登壇し、京都工芸繊維大学准教授の大田省一氏司会のもと、ディスカッションが行われました。ディスカッションでは、事前に会場から受け付けていた質問に答える形で、まちづくりの持続性、包括的なコミュニティーや共通の記憶・ナラティブ(その都市の成り立ち、物語)の重要性、住民と行政の関係、観光開発との付き合い方等について、パネリストの方々から各国の状況が事例として紹介されました。そのなかで、遺産を受け継ぐ次世代の人々を取り込むことが課題であること、また、日本には、ノウハウや経験を現地の若い世代に対して提供するなど能力開発の面での協力が期待されていることが明らかになりました。
最後に、上野邦一分科会長が登壇し、今回のシンポジウムの総括と閉会挨拶を行われ、盛況のうちにプログラムが終了いたしました。
今回のシンポジウムでは約200名の参加者がありました。
シンポジウム開催にあたりましては、後援団体や関係者の皆様、並びにご参加下さいました皆様に厚く御礼申し上げます。
※プログラムや開催概要はこちらをご覧ください。
【写真説明】(上から)
1:石澤良昭会長による主催者挨拶の様子
2:ヨハネス・ウィドド氏による基調講演の様子
3:クレメント・リャン氏による講演の様子
4:モーモー・ルウィン氏による講演の様子
5:エリック・ゼルード氏による講演の様子
6:グエン・スー氏による講演の様子
7:友田博通氏による講演の様子
8:ディスカッションの様子
9:ディスカッション司会の大田省一氏
10:上野邦一分科会長による総括・閉会挨拶の様子