2019(令和元)年7月24日(水)、東京文化財研究所セミナー室にて、第25回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「文化遺産保護の国際動向―世界文化遺産・無形文化遺産・水中文化遺産―」を開催しました。
この研究会は、文化遺産保護に関係する国際的な最新動向を国内で共有するため、世界文化遺産、無形文化遺産、水中文化遺産を取り上げ、これまでに国際的な場で議論されてきたことやその中での日本の関わり、また今後の課題について、それぞれの分野に詳しい専門家からご報告いただきました。
研究会冒頭では青木繁夫・文化遺産国際協力コンソーシアム副会長(東京文化財研究所名誉研究員)より、開会挨拶・趣旨説明を、また、友田正彦・文化遺産国際協力コンソーシアム事務局長より、コンソーシアムの事業紹介を行いました。
最初の講演では、西和彦東京文化財研究所文化遺産国際協力センター国際情報研究室長より、「世界遺産委員会でいま議論されていること」と題して、7月上旬に開催された第43回世界遺産委員会の内容を中心に、世界遺産委員会の諮問機関による勧告とは異なる内容が世界遺産委員会において決議される例が多い状況が続いていることや、文化遺産の新たな分野を世界遺産が切り開いていること、また「遺産影響評価」がより厳しく問われる現状など、今後世界遺産の保全の考え方を大きく変える兆候が見られることなどが報告されました。
次に、岩崎まさみ北海学園大学客員教授より、「コミュニティーが誇る無形文化遺産」と題して講演が行われました。無形文化遺産保護条約と世界遺産条約を比較しつつ、無形文化遺産保護条約の基本理念は「文化の多様性」であり、伝承の担い手であるコミュニティー自らが無形文化遺産と認めるものは価値において相互に平等であること、それにも関わらず、「世界的価値」が強調されたり、無形文化遺産の本質から離れた提案書の細部の表現により記載が見送られるなど、条約の目指す理念に照らし、実際の運用には課題が多いこと、現在日本の提唱によりその見直しが検討されていることが報告されました。
続いて、禰冝田佳男大阪府立弥生文化博物館館長より、「水中文化遺産保護をめぐる世界の動向、日本の現状」と題して講演が行われました。水中文化遺産に関する国際的な取組の推移を紹介しつつ、日本で陸上と比較して水中遺跡の保護・整備が進んでいないことの原因の一つとして、文化遺産保護の主体となる地方自治体にとって水中遺跡の調査のハードルが高いことが挙げられ、国が主導する体制整備の必要性が提言されました。
パネルディスカッションでは、岡田保良・文化遺産国際協力コンソーシアム副会長(国士舘大学イラク古代文化研究所教授)をファシリテーターに迎え、会場から寄せられた質問票に沿って議論が進められました。最後にまとめとして、無形と有形の垣根を越えた文化遺産保護の必要性、日本のもつ文化遺産保護の豊富な経験を他国に伝えていくことが期待されていること、水中文化遺産の分野では、水中文化遺産条約への加盟検討の前の国内の体制作りが肝要だという意見などが示されました。
当日は122名の方にご参加いただきました。
研究会の開催に際し、ご協力くださいました関係者の皆様、ならびにご参加くださいました皆様に御礼申し上げます。
【写真説明】(上から)
1:青木繁夫氏による開会挨拶・趣旨説明の様子
2:友田正彦氏による活動紹介の様子
3:西和彦氏による講演の様子
4:岩崎まさみ氏による講演の様子
5:禰冝田佳男氏による講演の様子
6:パネルディスカッションの様子
7:ファシリテーターの岡田保良氏
8:パネルディスカッションの様子