文化遺産国際協力コンソーシアムは、2020(令和元)年1月31日(金)、JPタワー&カンファレンスにて、第26回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「文化遺産とSDGsⅡ―世界では、いま何が語られているのか―」を開催しました。
2015年9月に国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の中では、ゴール11に関連して、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する(ターゲット11.4 )」ことが掲げられており、文化遺産が持続可能な開発に果たす役割が認識されています。
本研究会は、SDGsと文化遺産保護の関係を明確にするとともに、実際に文化遺産を通じてSDGs 達成に貢献するために、今後どのような視点や方法が文化遺産分野の国際協力に必要とされるかを議論するために開催されました。
青木繁夫文化遺産国際協力コンソーシアム副会長(東京文化財研究所名誉研究員)による開会挨拶・趣旨説明の後、ユネスコで文化遺産防災主任等を歴任された、ジョバンニ・ボッカルディ氏が「文化遺産と2030アジェンダ―ユネスコによるアプローチ―」と題して講演しました。持続可能な開発目標の達成に、文化遺産保護がどのように関係するのかが説明されるとともに、そのような観点からユネスコが近年進めている取り組みの概要と、その成果をまとめた二つの出版物「Culture for the 2030 Agenda (2018)」、「Culture/2030 Indicators(2019)」が紹介されました。
次に、岡橋純子氏(聖心女子大学准教授)が、「SDGs へ向けてのイコモスの取り組み」と題し、これまでのイコモスの取り組みを紹介しました。イコモスのSDGs作業部会が重点を置くのは、普及活動、履行手法のローカライズ、モニタリングといった活動であり、また主要な取り組みの一つとして、各国政府がSDGs のゴール11 の進捗状況についてレビューする場である国連ハイレベル政治フォーラムにて、遺産に関する報告を行ったことが紹介されました。
続く、中村誠一氏(金沢大学教授)による、「中米における遺跡を活用した国際協力事業:グアテマラとホンジュラスの事例」と題した講演の中では、マヤ文明の遺産の保存と活用に向けた取り組みが紹介されました。グアテマラの世界遺産「ティカル国立公園」では、世界遺産を文化資源として活用する中で、周辺コミュニティの住民に就労機会を創出するとともに、文化遺産に対する住民の意識変容を促すことを通じて世界遺産の保護につなげようとする、金沢大学とJICAが実施する草の根技術協力事業の様子が報告されました。
さらに、熊久保和宏氏(みずほ情報総研株式会社シニアコンサルタント)が、「ビジネスの視点からみたSDGs の広がり」と題し、講演を行いました。昨今の「SDGsブーム」到来をうけた、現在の日本における企業のSDGsへの取り組みの状況が紹介されるとともに、SDGsの枠組みを活用した、将来的な文化遺産保護とビジネスの接点をめぐる展望についても言及がありました。
これらの講演の後、松田陽氏(東京大学大学院人文社会系研究科准教授)の司会のもと、講演者を交えたパネルディスカッションが行われました。はじめに、浦野義人氏(国際協力機構産業開発・公共政策部 民間セクターグループ)より、JICAがUNWTO(国連世界観光機関)と共同で実施する観光開発事業の指標づくりの進捗状況が報告されました。続くディスカッションでは、SDGsのための文化遺産か文化遺産のためのSDGsか、といった抽象的な問いに加え、海外のフィールドで実際にプロジェクトを実施するにあたって配慮すべき点等についても議論され、文化遺産のオーナーシップや、地域社会と遺跡の特性に応じたプロジェクト立案に留意する必要があるといった意見が述べられました。また、SDGsへの取り組み状況が、世界遺産登録審査の中で評価されるようになる可能性にも話題が及び、SDGsという枠組みが文化遺産分野でも今後ますます重要になっていくことがあらためて認識されました。
友田正彦文化遺産国際協力コンソーシアム事務局長による閉会挨拶で、研究会は終了しました。
当日は、約130名の方にご参加いただきました。本研究会の開催にあたり、ご協力くださいました関係者の皆様、参加者の皆様にお礼申し上げます。
※研究会の開催概要・プログラムについては、こちらをご覧ください。
1:青木繁夫氏による開会挨拶
2:ジョバンニ・ボッカルディ氏による講演
3:岡橋純子氏による講演
4:中村誠一氏による講演
5:熊久保和氏による講演
6:パネルディスカッション司会の松田陽氏
7:パネリストの浦野義人氏
8:パネルディスカッションの様子
9:友田正彦氏による閉会挨拶
10:登壇者集合写真
11:会場の様子