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第29回研究会「文化遺産にまつわる情報の保存と継承~開かれたデータベースに向けて~」でいただいた質問に対する回答を公開しました

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第29回研究会(ウェビナー)「文化遺産にまつわる情報の保存と継承~開かれたデータベースに向けて~」で、参加者からいただいた質問に対する回答を公開いたします(尚、質問事項は、原則として参加者からいただいたまま表記しています)。


質問1

どの先生方も専門家のみでなく一般の方との情報の共有が文化遺産の継承において重要であると仰られていたと思いますが、先生方の期待する市民の役割というのはありますか?逆に市民から期待されていると思うような点、出来事、誤解されていると思う点などあればお伺いしたいです。データベースの作成自体は記録し閲覧することの効率性というところが大きな部分だと思いますが、先生方とわたしたち一般人との重要なコネクションになりうるという期待はありますか。

回答

発表のなかで述べたとおり、データベース公開は、フォーラム型情報ミュージアム構想における三者、「博物館・研究者」と「現地社会:資料の旧蔵・製作・使用者」と「一般市民」をつなぐ場です。市民からは、何に関心があるのか、情報がうまく伝わっているか等についてコメントをいただいて、データベースの改善に役立てられればと思います。
(回答者:齋藤玲子氏)


質問2

歌舞伎のように役者さんの裁量で手足の動きも立ち位置も違う場合、どのように記録をしていくのでしょうか。同じ興行期間中でも変わることが多々あるとお聞きしております。

回答

カタというものがあるのであれば、それを記録することが第一なのですが、そこから先の芸術的表現は別の記録(というより把握)が必要になると思います。そこはまだまだ課題で…。そもそもカタの記録というのは難しいところがあります。例えば手を耳の高さまで挙げる所作があったとして、それがカタなのか、本来は肩の高さまで上げるのにたまたま勢いでそこまで挙がってしまったのか、言葉による補足をしなければ記録になり得ません。そうした客観的な記録に加え、美しい動きとはどのようなものかという記録も必要となります。入門者がカタのおさらいをした記録と、名人が美しく演じた記録とは異なるものになるでしょう。またその一度きりの所作というものもあるでしょう。そうしたものをどのようにして記録するのかというのは、未だに試行錯誤をしています。
(回答者:久保田裕道氏)


質問3

地域の人が認識していないような小規模な無形文化遺産をどのように調査で把握していくのでしょうか。聞き取り時の質問設定のポイントなどがありましたらご教示いただけますか。

回答

年中行事のようなある程度想定できるものはいいのですが、未知の小規模無形文化遺産は難しいですね。把握するための前調査が必要になってきますが、調査者が長期調査に入るとか、地元の詳しい協力者を得るなどしないと難しいですね。
(回答者:久保田裕道氏)


質問4

日本では為政者が交代しても、先代の為政者に関わる文化財まで破壊されたり文化が失われることは殆どなかったと思いますが、海外の場合は破壊や剥奪が多いとお聞きします。文化財に対する考え方や価値観が、日本と海外ではそもそも全然違うのではないかと思いますが、海外では文化財を調査したり保存していく必要性をどのようにご理解いただいたのでしょうか。

回答

→日本でも例えば芸能などは、施政者によって度々弾圧を受け、消滅や変容を余儀なくされた歴史があります。現在でこそ日本では「文化財」的な考え方が浸透していますが、無形文化遺産はそもそも暴力的、差別的、退廃的といった要素を含んでいるものも多く存在していたことは否めません。
 私たちが海外で調査をする場合にも、その無形文化遺産が、実は暴力や差別に連動している可能性があることをよく認識する必要があります。また無形文化遺産は、国威発揚やマイノリティの宥和政策、あるいは反権力のプロパガンダにも利用されます。有形の文化財であれば、歴史的・美術的価値から保存する意義をアピールすることもできますが、特に無形の場合はそもそも現在進行形であるがゆえに、保護することが一概に正義とはいえません。また保護することによって、根源的なもの(例えば信仰)が失われる可能性もあります。
 それでも、部外者である調査者が、客観的な視点でその価値を指摘することによって、新たな価値の再認識がなされる場合もあります。さらに、例えば日本ではこうしたものを保護し、こういう効果が生まれているという経験を伝えることも、重要な意義を持つことになるでしょう。そうやって調査や保存の意義を訴えることも重要だと考えています。(あまり的確なお答えにならずに申し訳ありません)
(回答者:久保田裕道氏)

→例えば、朝鮮総督府庁舎が壊されたように文化財にはときに負の記憶が付随します。誰にとっての遺産かを考えずに、ある特定のステークホルダーの価値だけにこだわっていると、文化遺産の持続可能性は低くなってしまうのではないでしょうか。これは海外に限らず、日本も含めてあらゆる文化遺産にいえることだと思います。そのため、異なる立場にある人々が、同じ文化遺産に対してそれぞれ価値を見いだせるような複数の物語をつくることを意識しています。
(回答者:林憲吾氏)


質問5

お話しいただいたようなデータベースをあらたな地域で構築するためには、データベース技術を提供する人と文化遺産を知悉する人との協業が必要になると思うのですが、このような関係を短期間で築くためにはどのようなことが必要でしょうか。研究資金でしょうか(笑)

回答

データベース技術は普遍性が高く、技術者も各国に存在しているため、具体的な実例があれば、新しい地域での協業はそれほど難しいことではないと思います。ただし、データベース技術の提供者と文化遺産の研究者との理想的な協業は、私どもはまだできていないと感じております。調査で集めたデータを、技術者に協力してもらいデータベースにしているにとどまっております。いわば分業です。技術者と文化遺産の研究者が、もう少し調査以前から協業できれば、調査手法やデータの集め方に関して、もっと新しいアイデアが浮かぶのではないでしょうか。技術者と文化遺産の研究者が同じスタートラインに立ち、遺産の記録方法を考えていく必要があると思います。
(回答者:林憲吾氏)


質問6

数年前からモンゴルにて新設芸術大学の企画、設計に携わっています。建設はまだ先なのですが、大学開設にあたり先行して建築デザイン課の日本建築の授業をズーム等で遠隔授業を行うためのカリキュラムを作成中です。日本建築の歴史等を学ぶとしても縄文から近代までの歴史を踏まえた上で、と同時にモンゴルの建築遺産等をモンゴル人として知る必要があるかと思っています。そのために、単なる造形物としての建築ではなく、具体的な形のない草原の生活文化の背景を抑えながら生徒とデザインサーペイなどを含めながら授業を進めたいと考えています。そんな中、今日の話の中で、近代建築のデータベースの一覧にウランバートリが出ていたのでどのような視点でどのようなものが選定されているのか知りたいと思います。中身を知る具体的な方法を教えていただけると幸いです。

回答

私たちは近代建築を対象としているため、ウランバートルでは、ソ連の影響を受けた集合住宅などの建物が数多く収録されています。都市郊外のゲルもありますが、モンゴルの都市像や住まいが近代以降にいかに変化したかを理解するには有益なデータかと思います。ウランバートルは残念ながらWebデータベースになっていないため、私の研究室でデータシートを閲覧していただくことになります。                                           (回答者:林憲吾氏)


質問7

日本での近代建築調査は、前近代と近代の閾値を知ることが重要だったと思います。ところが、ジャカルタのような前近代がない(捉え方次第ですが)都市では、調査では近代と現代の間に線を引くことが主になっている気がします。この差がもたらすものは何でしょうか?

回答

大きく二つの要因があると思います。ひとつは、国民国家の形成が西洋化や近代主義の導入と同時期でなかったことではないでしょうか。国民国家という枠組みでの建築の成立を近代建築の一要素と捉えた場合、戦後に独立する東南アジアの国々では、日本のように戦前において近代建築が完結したとはいえません。では、どこまでか、と問わねばならず、近代と現代の間がより重要になるのではないでしょうか。もうひとつは、50年以上前の過去に戦後が含まれたからではないでしょうか。第二次大戦を過去と現在の区切りにできないほど、時間的距離が開いたことによって、過去と現在の新たな節目を探す必要性が生じたように思います。
(回答者:林憲吾氏)                               


※研究会の開催概要・プログラムについては、こちらをご覧ください。

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