文化遺産国際協力コンソーシアムでは、令和2年度から令和3年度の2年間にわたり、国際協力調査「海域交流ネットワークと文化遺産」を実施しました。
シルクロードをはじめ、交易に関する文化遺産は枚挙に暇がありませんが、遠く離れた地同士の交流の舞台となったのは陸上だけではありません。海上もまた、古来よりヒトとモノが行き来する舞台であり、「海の道」を通じて異なる文化や文明が出会ってきました。
世界の歴史を語る上でも、海の道が果たしてきた重要な役割に着目し、近年では、これまでの研究の中心であった陸から海へと視点を移して、海を切り口にグローバルヒストリーを捉え直そうとする潮流が生まれています。同時に、海を介した交流に関連する文化遺産の調査や研究、そして保護においても新たな視点が求められるようになってきています。
このような状況を受け、文化遺産国際協力コンソーシアムでは「海域交流ネットワーク」という概念を軸に、調査に取り組んできました。これは、海の道を通じた交流 によって遠く離れた地域を結ぶ多数の線が網の目を形成し、さらにはその影響が港湾などを通じて内陸部にも広がっていくことを指します。つまり、海域交流ネットワークによって、ヒト、モノ、地域の接触と交流が支えられたのであり、海域交流ネットワークに関わる文化遺産はその交流の物証と捉えることができます。
地域間の交わりに焦点を当てた本調査では、おのずと世界の様々な地域をカバーすることとなり、また、古代からほぼ現代にまで至る長い時間軸を対象とすることとなりました。このため、コンソーシアムが行う調査としては異例ではありますが、2か年にわたる調査となりました。
また、調査の企画と実施にあたって設置したワーキンググループには、コンソーシアムの6 つの地域分科会全てから委員が参加し、関連分野の外部専門家にも参加いただきました。プロジェクトに関わった専門家の研究領域は、考古学、文化人類学、建築学など幅広く、「海域交流ネットワークに関わる文化遺産」について、地域や研究分野を横断した、これまでに類をみない大規模な調査となりました。
27か国・29機関を対象にしたアンケート調査や、オンラインでの聞き取り調査、海域フォーラム・シンポジウムなど、様々な手法による調査や関連活動を実施した結果、海域を通じたヒト、モノ、文化の交流をめぐる多種多様な様相が浮かび上がりました。また、海域交流ネットワークに関連する様々な文化遺産の現状や、国際協力を通じた支援が期待される分野や活動に関する情報も寄せられました。このような文化遺産の保護において、今後日本がどのように貢献できるかを考える上でも重要な知見となることでしょう。
巻末にはユネスコ水中文化遺産の保護に関する条約(水中文化遺産保護条約)運用指示書の仮訳も掲載しております。
詳細は報告書をご覧ください。
本調査の実施にあたってご協力いただきました方々に、改めて御礼申し上げます。
コンソーシアムでは、海域交流ネットワークに関わる文化遺産について、引き続き情報収集・発信にあたっていきたいと思います。
国際協力調査ワーキンググループの様子(2020年)
オンライン調査の様子(2021年)