文化遺産国際協力コンソーシアムは、2022(令和4)年8月28日(日)に第31回研究会「技術から見た国際協力のかたち」をウェビナーにて開催しました。
文化遺産保護の分野でも、新しい機器や技術が導入されることで、調査や研究における記録や保存の作業がますます効率化・高精度化されるようになってきています。それと同時に、様々な技術の導入は、文化遺産に関わる調査・研究手法や国際協力のあり方そのものにも変化をもたらしています。
本研究会は、日本が関わる文化遺産国際協力の現場における具体的事例を紹介しつつ、多様な社会的・文化的背景のもとで行われる活動の中で、私たちは次々と現れる新技術の導入にいかに向き合うべきかについて議論すべく、開催しました。
まず、青木繁夫副会長が開会挨拶と趣旨説明を行い、文化遺産保護分野における測量技術の移り変わりを概観しました。1950年代に始まった写真測量は、技術の進歩に伴ってデジタル化が進み、現在ではレーザースキャナーやドローンを使った測量によって3次元データで記録できるようになっています。このような技術の利用は、文化遺産保護の分野にも大きな変化をもたらしていることが提起されました。
続いて、亀井修氏(国立科学博物館 産業技術史資料情報センター 参事役)が、「社会における技術の変化:テクノロジーとどのように向き合うか」と題して、技術の特徴をめぐる発表を行いました。技術とは「人が生きるための技や知識の総体」すなわちリクエスト・ドリブンの性質を有するものであり、ある課題に対する解決策を模索する中で、新たな課題が生じ、別の解決策を探すことを繰り返す中で発展してきたものといえます。また、近年は応用的な技術が基礎的な技術の延長線上に必ずしもあるわけでなく、原理が不明な技術をブラックボックスのまま使用する必要性が増していることも紹介されました。
具体的事例として、はじめに、下田一太氏(筑波大学 芸術系 准教授)が、「複数国の協力による技術導入:カンボジア・ライダーコンソーシアムの設立による遺産研究と保護」と題し、7カ国・8つの研究機関が協力して実施したアンコール遺跡群での航空レーザー測量を紹介しました。複数国による協力事業とすることで、多額の事業経費を分担し合えたことに加え、所属や分野の異なる専門家が参加することで、当初予想されていなかったような成果やデータの利用方法が見出されたことが報告されました。
次に、野口淳氏(金沢大学 古代文明・文化資源学研究所 客員研究員)が、「身近な最新技術で文化遺産保護を広める:誰もが取り組める計測記録を目指して」と題し、近年発展がめざましい3D計測技術の導入による人材育成について報告しました。パキスタンや南米で行った技術移転を目的とした協力事業の報告とともに、高い専門性が必要とされる特別な技術にかえて、デジタルカメラやスマートフォンといった既に社会に普及している汎用的な技術を使うことで、誰もが文化遺産の記録に携われる未来につながる可能性に言及されました。
これらの講演を受けて、亀井氏と友田正彦事務局長のモデレートのもと、講演者を交えたパネルディスカッションを行いました。はじめに亀井氏が講演内容を振り返り、「文化遺産保護における新技術との付き合い方」、「国際協力における技術利用」という2つのキーワードを掲げて議論が行われるとともに、「これからの文化遺産保護国際協力における技術利用の展望」について活発な意見が交わされました。そして、技術とは問題解決のための手段であり、技術移転の際には、その技術を使う目的と背景を相手と共有することが重要であることが確認されました。
最後に、友田事務局長による閉会挨拶があり、研究会は終了しました。
当日は、約90名の方にご参加いただきました。本研究会の開催にあたり、ご協力くださいました関係者の皆様、参加者の皆様に、あらためて感謝申し上げます。
※研究会の開催概要・プログラムについては、こちらをご覧ください。
※研究会を収録した動画は、こちらをご覧ください。